更新日:2023年05月24日 16:17
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友達へのプレゼントに大麻を密輸したベトナム人学生<薬物裁判556日傍聴記>

 インバウンドや外国人留学生が爆発的に増えた……というのも今は昔。吹き荒れるコロナウィルスの猛威でインバウンド景気も打ち止め。まったく世の中どう転ぶかわからないものだ。薬物事案の裁判を556日に渡り傍聴し、その法廷劇の全文を書き起こした斉藤総一さんの手記、今回紹介する被告人は19歳の経ベトナム人留学生だ。  彼の容疑は大麻の密輸だが、法廷での態度からは欧米圏の大麻への認識と日本の大麻への認識のどちらにも当てはまらない、また別種の価値観が垣間見える。これまでとは読み味が違う裁判傍聴記となった。   ***

斉藤聡一さん

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

友達へのプレゼントに大麻を密輸したベトナム人学生

 まずは例によって検察官による起訴状の朗読から。 検察官「公訴事実。被告人は、みだりに平成28年10月19日(現地時間)ベトナム社会主義共和国所在のハノイ•ノイ•バイ国際空港において、同空港発、成田国際空港行きの航空機に搭乗する際、大麻である緑色乾燥植物片86.02gを隠し入れた透明ビニール袋や刻みたばこ1袋を収納したダンボール箱を、機内預託手荷物として預けて同航空機に積み込ませ、同月20日、千葉県成田市所在の同空港内の駐機場において同空港関係作業員に同ダンボール箱を同空港に到着した同航空機から機外に搬出。  もって大麻取締法が禁止する、本邦への輸入を行うと共に、同日、同空港内の東京税関成田税関支署第1旅客ターミナル旅具検査場において、同支署税関職員の検査を受けた際、関税法が輸入してはならない貨物とする前記大麻を携帯しているにもかかわらず、その事実を申告しないまま同検査場を通過して輸入しようとしたが、同職員に前記大麻を発見され、これを遂げることができなかったものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、関税法違反。大麻取締法違反、第24条1項。関税法。第109条3項1項、69条の11、第1項1号。以上です」  端的に言えば、物に大麻を忍ばせた密輸ですが、被告は事実確認に対し「たしかに私が大麻草を日本に持ち込んだことに間違いないが、故意に持ち込んだのではない。事前にこれが大麻草であることは知らなかった。この植物片を日本に持ち込んだときには、うっすら何かの違法性があると思っていたが、まさか大麻草だとは知らなかった」と答えます。  大麻かどうかは知らなかったが、輸入禁止のものかもしれないという疑惑はあった。わかるようなわからないような回答です。  この後の証拠調べでは、検察官から被告のFacebookのメッセンジャーのやり取りが読み上げられました。以下はその書き起こしです。ちなみに、下記、被告とやり取りするDなる人物はドンコリーと言い、ベトナム人であろうこと以外はよくわかりません。 被告人 <あなたの友達に聞いてくれる?> D <クサを買えるように聞いてあげるわ> 被告人 <はい> D <前は一個300万、例え値段が上がっても20万、30万しか上がらない。それでもOKなら俺が買ってあげる。もし1個が100gなら大きさはiPhone6のケースと同じくらい> 被告人 <100gは少なすぎる> D <100gはiPhoneのBOXと同じ重さだよ。圧縮したクサ> 被告人 <OK。今晩また連絡するね> 被告人 <それを外に刻みタバコを包みたいから>  このやり取りを見る限り、裁判官の心証はかなり悪いと言っていいでしょう。大麻の認識があったと読むほうが自然です。また、大麻を隠したタバコの外箱からは被告の指紋が検出されています。  ただ、この後の弁護人の質問を読み進めると、おそらく大麻とは認識していただろうが、保身のために悪意ある嘘をついているようにも思えない部分がああります。19歳という年齢ゆえか、お国柄の違いなのか、密輸という罪状のわりに随分呑気に見えるやり取りが続きます。以下、少し長いですが、この裁判の取り止めなさが象徴された弁護人と被告のやり取りの一部です。 弁護人「あなたは大麻が、どういうものかは知っていますか?」 被告人「わかりません」 弁護人「わかりました。あなた自身は、日本に持ち込んではいけない、持ってきてはいけない薬物があるということは知っていますか?」 被告人「わかりませんでした」 弁護人「もう1回聞くね。日本に、持ってきてはいけないような薬物があると、要は日本に持ってきていい物と、持ってきてはいけないものがあることは知っていますか?」 被告人「はい」 弁護人「その持ってきてはいけない物のなかに、薬とか、植物とか、そういうのがあるのは知っていますか?」 被告人「知っています」 弁護人「持ち込んではいけない物のなかに、問題となっているクサがあるのは、あなたは見ていますよね?」 被告人「はい」 弁護人「あなたは、その物が何だと思っていたんですか?」 被告人「自分のなかでは、水パイプのタバコよりも強いタバコだと思っていました」 弁護人「その水パイプタバコよりも刺激の強い物っていうのは、あなたのなかで適法なのか違法なのかという判断はついていましたか?」 被告人「合法か違法か、まったく考えていませんでした」 弁護人「違法かもしれないということは考えていたのかな?」 被告人「はい」 弁護人「それでも、あなたは構わないと思って日本に持ち込んだのかな?」 被告人「はい」 弁護人「そしたら、それは何のために日本に持ってきたのかな?」 被告人「学校の友達たちにプレゼントしようと思っていたからです」 弁護人「わかりました。それを持ってこようと思った経緯について聞いていきますね」 被告人「はい」 弁護人「あなたはさっき、今回問題になっている物、違法なのか適法なのかわからない物、それについてあなたは何て呼んでいましたか?」 被告人「コ……」 通訳人「クサ」 弁護人「今、コって言いましたよね?」 被告人「はい」 弁護人「それは、アルファベットで?」 被告人「はい。COと書きます」 弁護人「あなたがクサと言ったから、これからはクサと表現しますね?」 被告人「はい」 弁護人「そのクサと呼ばれている物を、あなたが手に入れようと思ったのはいつですか??」 被告人「まだ日本国内にいた時に、ベトナムに一時里帰りをした時に、日本に戻る時に、友達にお土産としてCOを買ってこようと思っていました」 弁護人「そのCOという物はクサですよね? 日本語で言うと、あなたクサと言いましたけど、そのクサを持ってこようと思ったキッカケは何ですか?」 被告人「周りからの話を聞きますと、みんなが私が持ち込もうとしていたクサを好きだった」 弁護人「今あなたが話したのは、周りの友達が、クサというのを好きだったと話をしていましたが、あなたは、そのみんなが喋っていたクサが何だと思っていたんですか?」 被告人「クサと呼ばれたものが、タバコの一種だけれども他のタバコよりも刺激が強いものだと思っていました」 弁護人「わかりました。じゃあ、みんなが好きだから、それを持ってこよう。プレゼントしようと思ったわけね?」 被告人「はい。」
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大麻の密輸という違法行為
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。 note(https://note.com/so1saito/n/n15925651fcbb
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