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文学フリマから生まれた“SNS時代の私小説”『夜のこと』

―[夜のこと]―
 かつて“日本一有名なニート”として知られたphaが、2018年に文学フリマに出店。そこで発売された同人誌は、彼の限りなく私的な恋愛事情について赤裸々に書かれたものだった。インターネットのブロガーとしても知名度が高く、すでに多数の著書を出版している彼は、なぜ今「文学フリマ」という場を選び、恋愛小説『夜のこと』を書いたのか。文学フリマ代表の望月倫彦氏と共に、インターネットと文学フリマの関係性について語り合った。

恋をしていたというより、書く動機が欲しかった

左:元”日本一有名なニート”・pha(ファ)/右:文学フリマ代表・望月倫彦

左:元”日本一有名なニート”・pha(ファ)/右:文学フリマ代表・望月倫彦 撮影:後藤巧

――おふたりは会うのは初めましてですか。 pha:そうですね。 望月:phaさんは有名な方なので、僕は一方的によく知ってはいますが。出演されていた「ザ・ノンフィクション」も拝見していて、その飄々とした姿が記憶に残っています。なんとなくふんわりとシェアハウスで生活をして、その後、ふんわりとやめて一人暮らしを始める感じ。嫌になったとか、特別な理由があるとかではなくて、「なんとなく潮時かな」っていう感じでやめていくのが印象的で。 pha:そうですね、シェアハウスをやめたのは、ただただ飽きたからってだけで。 望月:昔、永島慎二の『若者たち』という漫画があったのですが、その最終回を思い出しました。若者が狭いアパートの一室で暮らす物語なのですが、最後は特に意味はないけれども「なあなあの仲になりすぎなれ合いになって来た」とか言って同居生活が終わってしまった。 pha:いい最終回ですね。 望月:phaさんは、シェアハウスにすら縛られないというか。たとえば今回の小説『夜のこと』では、phaさんが恋をしていた女の子に対して一本道の動機があるのかなと思って読んでいたんですけど、この作品でも女の子に縛られていないというか。結果的にはベクトルが小説を書く方に向いている。 pha:たしかにそうですね。そう言われて振り返ってみれば、本当にやりたかったのは小説を書くことで、好きな女の子の存在はそのきっかけとか言い訳に過ぎなかったのかもしれないです。

「文フリだったら炎上しないかなって」

元”日本一有名なニート”・pha(ファ) ×  文学フリマ代表・望月倫彦 対談風景望月:小説の中で文学フリマに出店した経緯も書かれているじゃないですか。ネットだと変に広がって炎上するからイベントで売るくらいがちょうどいい、っていう話。文学フリマの使い方をよくわかっているなと思いました。 pha:ネットは広がりすぎる危険がありますからね。ただ、理由はそれだけではなくて、ずっと前から「同人誌を作っている人たちって楽しそう」という思いがあったんですよ。文フリやコミケ、コミティア、とか。周りの知り合いでも書いている人が多くて、自分でもやってみたいな、と。正直何を書きたいとか決めていたわけではないんですけど、ちょうど小説を書きためていたから、これでいいか、って。 望月:正直読んだときはちょっと驚きました。「日本一有名なニート」という響きから想像する内容とはまるで違うものだったじゃないですか。そういう肩書きに憧れていた人たちにしてみたら、がっかりだよって言われたりするんじゃないかな、とも思いましたけど、実際反応はどうでしたか。 pha:この本が出るにあたって、試し読みをネットで公開したときは、そんな話聞きたくねえよ、みたいな反応がありましたね。ただ、文フリでわざわざ買うような人たちはある程度僕に興味関心をもって来てくれている人なので、いい反応が多かったです。
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小説『夜のこと』は、SNS時代の私小説
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元”日本一有名なニート”・pha(ファ) 初の小説を執筆!
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