仕事

“空飛ぶクルマ”を作る企業が求める人材。ラジコンマニア、自衛隊パイロットetc.

元三菱航空機MRJ・岸氏の参画が追い風に

 調整役の福澤氏を技術面で支えるのが、スカイドライブのCTO(最高技術責任者)を務める岸信夫氏だ。岸氏は、三菱重工と三菱航空機で40年近くにわたって航空機開発に携わってきた人物。国産初のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」のチーフエンジニアや技術担当副社長を歴任している大物の技術屋だ。とくに、航空機の「型式証明」の取得に豊富な知見があり、スカイドライブが飛び立つには不可欠の人材と言える。 「型式証明」は、航空機の量産化には必ず越えなければならないハードルだ。製造過程での検査、さらに完成後の実用機としての試験を行い、航空法の安全性基準、騒音基準、エンジンの排出物基準に適合していることを運輸当局に証明する必要がある。  この型式証明や安全性検証のノウハウを持つ人材は、空飛ぶクルマ実現のためになんとしてでも迎えたいところ。福澤氏は、約3カ月間をかけて岸氏を丁寧に口説き落としたそうだ。’08年から開発が始まったスペースジェットは1兆円の資金を投じられながらも頓挫しており、岸氏は新天地で航空機開発の夢の続きを追うことになったわけだ。 「講演会で人に紹介していただいて初めてお会いしました。当時はたまたま岸さんが定年を迎えて子会社に移ろうとしているタイミングで時間があったので、週2の業務委託というかたちでスカイドライブに来ていただきました。まず会社を知ってもらい、我々の人となりを知ってもらい、定期的に来てもらって状況を知ってもらう。ステップバイステップで慣れてもらい、時間をかけて納得したうえで入ってもらったかたちです」

岸氏の参入が社内外に大きな影響を

 岸氏は、三菱航空機を定年退職後、’20年4月1日付でスカイドライブのCTOに就任。その3日後に、空飛ぶクルマの二代目試作機「SD-02」は、有人飛行試験における技術面での検証が完了した。  操縦性や飛行安定性についてのテストが無事に終わり、ここまでの過程で明らかになった改善点を踏まえて、次代の試作機を設計するフェーズに突入したというわけだ。このタイミングで岸氏をスカイドライブに迎え入れたことで、社内の空気も対外的な反応もガラリと変わったと、福澤氏は言う。 「社内の空気感としては、それまで『試作を作ろう』だったものが、『量産機を作るぞ』という風に大きく変わりました。対外的には、『あの岸さんが参加するほどなら、ひょっとしたらちゃんとした会社になるかも?』という目で見られるようになったと感じます。  実際、あまりお付き合いのなかった一流メーカーの方もお話を聞いてくださるようになりましたし、大企業で活躍するようなエンジニアがスカイドライブに転職してくれるようになってきた、という目立った変化がありました」  同社には、さまざまなバックグラウンドを持った人材が各分野から集まっている。出身業界の内訳としては、航空機、ドローン、自動車が3分の1ずつぐらいなのだそう。では、同社が求める人材とは? 「まず、各分野なりの設計や型式認証の経験がある方。キャラクターとしては、やはりいろんなバックグラウンドの人が集まっているので、そういったなかでいろんな価値観を受け入れて、本当にベストな進み方を作っていけるかどうかという点が大事ですね。素直に物事を捉え、柔軟性のある方が活躍しています」
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テスト飛行はラジコンマニアが!?
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