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東海林のり子が肝に銘じる「リポーターとして伝えるべきこと、伏せるべきこと」

加害者の家族にインタビューし批判を受ける

東海林のり子2-2 81年、「藤沢母娘殺人事件」と呼ばれる少年犯罪が起こった。中学を卒業後、少年院を出たり入ったりしていた犯人が、そこで知り合った仲間とともに新聞集金人を装い、その家の母親、長女、次女の三人を牛刀でめった刺しして殺した残忍な事件だった。犯人は長女の元交際相手だった。復縁を求めての犯行だった。 「私はどうしても、犯人の母親に話を聞きたくて手紙を出したり、物を届けたり、何度も訪問したりして、粘り強くインタビューを依頼しました。そうしてようやく、“カメラなしなら……”という条件でインタビューにこぎつけたんです」  初めて、犯人の生家に足を踏み入れる。室内には数多くの文学作品が並んでいた。 「まずは詫びてくるんだろう、私はそう思っていました。でも、犯人の母親の第一声は、『私、小説が好きなんです』というものでした。さらにその母親は、『今日、息子が自供しました。褒めてやりたい』と続けました。その瞬間、すべてが明らかになった気がしました」  犯人は母親に溺愛されて育ったという。しかし、妹が生まれるとその愛情はできのいい妹に注がれるようになる。やがて、家庭内での居場所を失った少年は家庭で疎んじられ、生活が荒んでいく。しかし、母親はそれを見て見ぬふりをしたまま放置し続ける。そうして起こった悲劇――。東海林のイメージは一瞬で膨らんだ。 「この母親に対する違和感はずっと拭えませんでした。そこで私は、再度交渉をして、今度はカメラの前でのインタビューを実現させました。“どうして、こんな人間が育ったのか?”、そのカギはこの母親にあると考えたからです」  インタビュー現場に着飾って現れた少年の母。東海林はマイクを向ける。それでも、合点のいく答えは返ってこない。うなだれることもなく、淡々と続く不毛なやり取り。結局、何も手応えを感じることなく、インタビューは終了する。 「放送後、被害者の親ではなく、犯罪者の親をテレビに登場させたということで批判も受けました。でも、私はこの母親のインタビューをしたことをまったく後悔していません。当初考えていた、“どうして、こんな人間が育ったのか?”ということはハッキリとはしませんでした。でも、母親の言葉からは息子に対する愛情は欠片も感じられなかった。そんなことを感じたことをよく覚えています」

『なんてったってアイドル』で思い出す、88年「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の現場

 前述したように、80年代は少年犯罪が相次いだ。東海林の記憶に残るのは88年に起こった「女子高生コンクリート詰め殺人事件」だ。埼玉県三郷市の路上で、不良グループが当時17歳の女子高生を拉致する。女子高生は約40日間にわたって監禁され、集団リンチの果てに死亡。遺体を隠すべくコンクリート詰めにされて東京湾近くの空き地に遺棄されるという痛ましくも、残忍な事件だった。 「あの頃、何かが少年たちを苛立たせていた。そんな時代に入っていたのだと思います。女子高生が拉致されていたのは、仲間の一人の自宅でした。“どうして、親は気がつかないのか?”、と誰もが思いました。事件現場に行き、裁判も傍聴しました。後でわかったことですが、少年たちは小泉今日子ちゃんの『なんてったってアイドル』の曲に合わせて、鉄アレイで少女を殴りつけていたと言います。だから私、今でもこの曲を聴くと、あの事件のことを思い出してしまうんです……」  東海林の話にあるように、事件直後のリポートはもちろん、取り調べや裁判など、その後の経過も追い続けた。前述の「金属バット両親殺害事件」、そして「女子高生コンクリート殺人事件」。いずれも、公判時の印象が強いと東海林は語る。 「金属バット事件の犯人は、逮捕時は中華まんじゅうみたいにほっぺもパンパンで太っていました。でも、公判時には同じ人間だと思えないほどやせ細っていました。一方、コンクリート詰め事件のときには、4人の少年が犯行に及んだんだけれど、主犯格の少年は傍聴席をにらみつける態度を取り続けていた。でも、そのうちの一人の少年は髪が真っ白になっていました。外に出ることもできないから、首筋は真っ白で、そこには血管が青く浮き出ていました。犯罪を犯した少年でも、その受け止め方はそれぞれだったんです」  昭和天皇の容体が思わしくなかった。「昭和」が終わろうとしていた。そんな頃、東海林のリポーター人生にとって、「忘れられない事件」が発生する。4人の少女が誘拐、殺害された「東京・埼玉連続殺人事件」、世に言う「宮崎勤事件」だった――。 (第3回に続く) 取材・文/長谷川晶一(ノンフィクションライター) 撮影/渡辺秀之
1970年、東京都生まれ。出版社勤務を経てノンフィクションライターに。著書に『詰むや、詰まざるや〜森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)など多数
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