ニュース

知られざる少年院生活の実態「幼稚園児レベルの告げ口されるから、誰も信用できない」

毎日の日記のやりとりで問題点の照準を絞る

少年院

入院すると3級に指定され、成績の評価に応じて進級していく。予定された期間で進級に必要な基準に達しなかった場合は、収容期間が延長される

 担任教官と少年は毎日の日記記入と記載内容へのフィードバックを通して一対一の対話をする。法務教官のDさんは、この“交換日記”が「実質的に日本の少年院における矯正教育の中心」と説明する。 「担任は面接も行いますが、勤務中は何かしらの配置についており、十分な時間は取れません。しかし日記は毎日受け渡しします。作文も週に4、5本。文字のやりとりは、少年が抱える問題点の照準が絞りやすいんですね。  その他、当たり前のことができないコも多いですから、『おはよう』の挨拶の仕方から歯の磨き方、箸の上げ下げから爪の切り方、ボールペンの蓋で耳かきをしているコがいれば注意し、パジャマの着方から夜寝るときの『おやすみ』まで、日常生活すべてが指導です」  犯罪白書によると、2015年時点で出所後5年以内矯正施設再入所率は、刑務所から出所した者の37.5%に対して、少年院出院者では22.7%。この数字だけ見ると少年への矯正教育はある程度効果があるように感じるが、一方で、今回の事件のように、矯正不可能と思われるような人間も入ってくる。  取材対象の少年たちに「少年院で岡庭のような人間は更正できるか?」を問うと、「人種が違う」「難しい」という答えが返ってきた。殺傷事件のあった境町が地元のAさんにいたっては「無理です。自分が殺してやりたいぐらい」と断じた。  現状では、悲劇を繰り返さない仕組みが整備されているとは言い難い。矯正教育や治療の内容、出院後の社会のサポート態勢のアップデートは今後も課題となる。  また、厳罰化の流れにあった少年法の改正案が5月21日に可決成立した。今後罪を犯した18、19歳については「特定少年」と規定し、起訴(略式を除く)された段階での実名報道を解禁。従来の全件家裁送致は維持するものの、その後、成人と同様の刑事手続きを取る検察官送致(逆送)されることになる。  厳罰化が少年たちの更生にどのような影響を及ぼすことになるのか? しばらくの間注視する必要があるだろう。

元・法務教官のジャーナリストが語る矯正教育の現在地

少年院

写真/朝日新聞社

 茨城一家殺傷事件の容疑者を巡る報道から見える、幼少期から続く常軌を逸した残虐性からは、’97年に神戸連続児童殺傷事件で社会を震撼させた「酒鬼薔薇聖斗」こと元少年Aを想起させられる。  矯正教育の現場を取材し『少年A 矯正2500日全記録』(文藝春秋)を上梓して話題となった東京少年鑑別所元法務教官でジャーナリストの草薙厚子氏が振り返る。 「神戸の事件では、2人の死者と3人の重軽症者が出た。殺害した少年の身体の一部を中学の校門に置くなど、強い暴力性を伴った特異な犯行でした。世間を騒がせた事件でしたから、法務省は威信を懸けて“国家プロジェクト”として更生に取り組んだのです。  少年院の矯正教育は、入所前から聞き取りや観察などを徹底的に行い、少年ごとに個別のカリキュラムが組まれます。基本的に、入院期間は定まっておらず、更生したと認められるまでは出院できません。神戸の元少年の場合、『性的サディズム』の治療と、『愛着障害』を治療するため、精神科医を中心に法務教官が両親を演じるなど、もう一度育て直すことに注力しました」
次のページ
社会全体で対応すべき問題
1
2
3
4
おすすめ記事