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復権を狙う安倍前総理。憲法秩序破壊の虚偽答弁を許してはいけない<ジャーナリスト・倉重篤郎氏>

人材払底、政権党の資格なし

 私の憲法観からすれば、安倍氏は憲法秩序の破壊者として、憲法審査会で聴取対象となるべき人物である。本来は議員辞職すべきところ、政治家として最低限のモラルであった離党もせず、ひたすら世論の忘却効果を待つ、という不徳の政治家である。  かつて、竹下登元首相が自らの不祥事について国会証言で「万死に値する」と頭を垂れたことがあった。リクルート事件、皇民党事件など、いろいろなスキャンダルを抱えこんでいた人物のつい口から出た反省の弁であったが、むしろ、この言葉は国会を多数回欺罔した安倍氏のためにあるようなものであろう。  そんな安倍氏の復権シナリオが、いかにもありうることのように喧伝されるのが、今の政権与党の惨状であり限界ではないか。かつての自民党ではありえまい。野中広務や梶山静六、後藤田正晴各氏ら直言居士たちが現役であれば、安倍氏のような立ち回りは、たちどころに批判され、政界から放擲されるであろう。  ことの本質は自民党内の深刻なまでの人材劣化・払底である。派閥全盛時代には、次を狙う、そこそこの人物がネクスト・バッターズ・サークルで、ビュンビュンと音を立てながらバットを素振りしていたものである。佐藤栄作氏の後の「三角大福中」がそうだったし、中曽根康弘氏の後の「安竹宮」もそうだった。橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗各氏あたりから層が薄くなった。  ポスト小泉純一郎では、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎各氏と歴代首相の孫子にリクルートの輪を広げなければ人材を得られなくなった。

野党には自民党から政権を奪い返す重要な任務がある

 そして、極め付けがポスト安倍である。菅首相という選択で、自民党は、本来は裏舞台にいるべき人を表に出さざるを得ないところまで追い詰められた。  首相になるための訓練、努力をすることもなく、官房長官として8年間カネと人事権で権力を増長させてきただけの菅氏が首相職をうまくこなせるはずはなかった。コロナで検査体制、医療体制を十分整えられず、何よりもワクチン戦略で完膚なきまでに欧米に劣後した。「コロナ敗戦」「ワクチン敗戦」のA級戦犯と言われてもおかしくない。  本来であれば、党内で喧々諤々の論争があり、政策、路線が修正されていくべきであろうが、それができない。次なる人材が現政権の失態をきちんと批判し、代案を準備すべきであろうが、それができない。ただひたすら現権力の人事権、公認権、解散権の元にひれ伏すのみである。  そんな自民党に政権運営の資格はない。野党は、次の衆院選で、人材払底の自民党から政権を奪い返す、という重要な任務があることを認識すべきだ。その方が「安倍復権」の腐臭を漂わせる自民のためになる。 <文/倉重篤郎 記事初出/月刊日本2021年6月号より> くらしげあつろう●毎日新聞客員編集委員。1953年、東京都生まれ。78年東京大学卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2021年6月号

【特集1】コロナ敗戦 A級戦犯は安倍・菅・加藤だ
【特集2】日本はどこへ
【特別インタビュー】五輪延期を打ち出すか 女帝・小池百合子の深謀遠慮(東京工業大学教授 中島岳志)


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