復権を狙う安倍前総理。憲法秩序破壊の虚偽答弁を許してはいけない<ジャーナリスト・倉重篤郎氏>
―[月刊日本]―
安倍虚偽答弁は憲法秩序破壊
憲法改正のための国民投票法改正案がこの国会で成立する見通しとなった。焦点のCM規制で自民党が立憲民主党の修正要求を全面的に呑む、という妥協が成立したためで、2018年から9国会にわたり採決が先延ばしされてきた改憲手続法がようやく整備されることになった。
背景には、菅義偉首相が自らの再選戦略のため、改憲に必ずしも不熱心ではないとの証として、安倍晋三前首相ら自民右派勢力を引き寄せる狙いがあった。立憲側も「何でも反対」ではない、という切り替えのタイミングを伺っていた。
改正そのものには異議はない。改憲自体が否定されるものではないし、そのための制度、仕組みを完備させておくことは国会の使命である。今後はCM規制のみならず、最低投票率、投票所の整備といった先送り課題についても、時間をかけて徹底的に詰めることだ。
ただ、不満がある。直近に起きたことで、憲法にとってはより重要、死活的なテーマと思われる問題が、全く議論されなかったことだ。
それは、国政の最高責任者が国権の最高機関で、118回にわたり虚偽答弁していた、という前代未聞の国会愚弄事件をなぜ、衆参両院の憲法審査会が、憲法に関わる自分たちの問題として取り上げなかったのか、という根源的な疑問である。
虚偽答弁とは、安倍氏が首相時代に行った、例の「桜を見る会」をめぐるものだ。実際にはその前夜祭費用を安倍氏側が補填していたにもかかわらず、平然と繰り返し嘘をついていた。衆院調査局の調べは、答弁は19年11月から20年3月までのべ33回の衆参本会議や委員会で行われ、「事務所は関与していない」という趣旨の答弁が70回、「明細書は無い」が20回、「差額は補填していない」が28回だった、という。
憲法は、第五章で首相権限について、国務大臣の任免権、行政各部の指揮監督権、衆院解散権を明示、行政の最高責任者としての地位を授権する一方で、第四章冒頭の第41条で「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」とうたっている。
あらゆる行政権限の体現者である首相は、国民の代表たる国権最高機関の立法権保障のため、その傘下にある行政機関をフルに活用し最高度の情報、データを提供する義務を負っている。根拠のない情報、ましてや、明らかに嘘と認定されるものが入り込む余地はゼロである。それが憲法が行政、立法関係に与えた不動の秩序である、と解釈できる。
その点からすると、安倍氏の三ケタ回数に及ぶ嘘答弁は、単なる政治倫理問題を越え、行政・立法間の憲法秩序を破壊した、と言える。このことを甘く見るべきではない。曖昧、半端に処理すれば、これが前例として残り、憲法の規範力が著しく劣化する。国会はその権能を死守するためにも、与野党を超え、この秩序破壊者に対し、決然と抗議し、しかるべき制裁を科すべきであった。
「憲法について広範かつ総合的に調査を行う」目的で発足した憲法審査会こそがまさに、その任を担うべきであった。自民党から言い出しにくいなら、野党から「この憲法秩序の回復なくして憲法論議はあり得ない」と提起し、憲法抵触・破壊事例として調査・審議を重ね、安倍氏を参考人として聴取すべきであった。前首相だからと言って手抜きすべきではない。首相であったゆえに罪が重いのだ。
当面菅支持の「復権シナリオ」
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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