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<純烈物語>歌い手を目指すなかで白川裕二郎は米倉利紀の唄に揺さぶられた<第99回>

石原裕次郎、フランク永井etc.往年の名曲を練習

 ミュージカルも、その後に訪れた純烈も音楽に携わりながら、それまで聴いていたものがバックボーンとなったわけではない。そこはリスナーと仕事といった立ち位置の違いが明確にある。  演歌・ムード歌謡を始めた時も、音楽的パフォーマンスをする上で影響を受けたアーティストはこれといっていなかった。だから、お手本にした先生をあげると、それは「パソコン」となる。  和田弘とマヒナスターズ、ロス・プリモスなど先人の歌い方を繰り返し再生し、愚直にマネした。それまで意識せず聴いていたものも、注意深く耳をそばだてると気づきがあった。 「ムード歌謡って、男が女性の心を歌うから声をひっくり返したり鼻にかけたり、そういった技術をやっているんです。それで自分もやってみたんですけどうまくいかなくて、これって先輩の方々ならではなんだなとの結論に達しました。僕は高いキーが出ないので、そこからは石原裕次郎さん、フランク永井さんといった往年の名曲を練習するようになっていきました。  ミュージカルとムード歌謡の声の出し方って基本は今思えば一緒なんでしょうけど、その当時はわからなくて。そうやって試行錯誤していくうちに、僕の声は僕にしか出せない。先輩たちに近づけようと思っても、それはその先輩しか持っていないものなのだから、ニセモノになってしまう。ならばマネするのはやめよう、自分の声に魅力があるのだとすれば、自分にしか出せないのだから、それで勝負しようとなりました」  影響を受けずして、時間こそかかったもののゼロから自身のスタイルを確立するにいたった白川(言うまでもなく本人は完成と思っていないが)。普段は自分たちの曲もあまり聴かない中で、最近は安全地帯、THE YELLOW MONKEY、米米CLUBをリピートしている。

玉置浩二の声、カールスモーキー石井の歌い方、そして米倉利紀に

 玉置浩二の声が好きで、他のアーティストの曲も、自分の作品のように歌い上げてしまうそのセンスに唸らされる。また米米にはムード歌謡的要素があり、カールスモーキー石井のボーカルには学ぶべき点が多いという。  アーティスト括りではない白川にとっての特別な存在をあげるとするならば、それは米倉利紀になる。2人は2008年と2010年にミュージカル『レント』で共演。  その稽古で、出演者同士の親睦を深めるためにそれぞれの過去を披露する時間が設けられた。一人ずつ話す中、自分の番が回ってくると米倉は「僕はアーティストなので歌を聴いてください」と言うと『大丈夫っ!』をアカペラで響かせたのだ。 「その時、僕は初めて歌で泣いたんです。この人、やべえ!と思った。もちろんヒット曲がいくつもある方であるのは知っていましたけど、どうしてこんなにも声に深みと温かさがあるんだと。それほど高くないのに、すごく体に響く心地よい声をしていらっしゃったんです。説得力、やさしさ……歌に必要なすべてを兼ね備えている。それでミュージカルを一緒にやっているうちに、ファンになってライブも何度となく足を運んでいます。  トシさんの声はどうやって作り上げたのか、聞いたことがあるんですけど『僕の地声は高くないけど、裏声でいろんな人たちの曲を歌ってきた。その中で一番好きなのは久保田利伸さん。久保田さんのキーは出せないけれど、裏声で練習したんだ』と。それでいっとき、久保田さんのマネをした米倉さんのマネをしていましたね」  それが純烈における歌唱法につながったか、あるいは影響が及んだかさえもわからないそうだが、重要なのは同じく歌と声を生業としている人物に心を揺さぶられたこと。そして自分なりに模索しつつ得られた経験は、何一つ無駄にはならなかったというのが、白川の考えだ。  ボーカリストでありながら、リスナーの耳と目線も持ち続けている。じつはそれこそが、歌い手としての強みなのかもしれない。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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