更新日:2021年06月25日 17:46
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「妻は愛しいが頭が悪い。救ってあげねば」モラハラ加害者の心理を当人が振り返る

ハラスメント加害者が陥りがちな思考「この世に正義はただ一つ」

 えいなか氏は、どのようにして自身の加害性を客観視することができたのか? 「被害者たちからのアクションがあったことが直接的なきっかけであることはもちろんですが、実は大学院で学んでいた科学哲学が役に立ったと思います。  知識の捉え方には二種類あります。この世に正しいことはただ一つであると考える普遍主義、もう一つは知識や正しさとは絶対的なものとして存在するのではなく社会的合意を取りながら構築されていくものと考える社会構成主義です。  自分は元々普遍主義的な考えだったのですが、科学哲学を学んだ結果、考えが変わったんです。社会構成主義の立場にたてば、正しさには多元性があり、答えは1つではありません。パワハラ、モラハラ、DVをする加害者は、自分だけが正しく、相手は間違っていると考えます。まさに社会構成主義の対極の信念に基づく行為です。  そう気づけた時に、自分に問題がある可能性を感じ、アルコール依存症、神経科学の本、発達心理学や臨床心理学、コミュニケーションやケアリング理論まで知見を拡大し、自分に接続した瞬間に目の前が開けたという感じです」

周りの人が離れていくわけがようやくわかった

 本業であるコンサルティング業ではパワハラ上司と呼ばれるような人たちをカウンセリングする機会も多かったという、えいなか氏。それでもなお、自分に当てはめて考えることができなかったのは、「普遍主義の立場に立ち、自分の正しさを盲信していたから」だという。 「感情や心での理解が難しく、目の前で人が傷ついている事実をうまく自分の中に取り込めない。それはASDであることも関係していると思います。あくまで自分の場合ですが、ASDだからこそ、人がどういう時に怒り、悲しむのかということを本から知識として学習したときに、ようやく理解できたのです」  自分が正しいわけではなく間違っていた。自分は100%加害者だったーーそう気づいた時、えいなか氏はとにかく「うれしかった」と言う。 「昔から、大切にしているはずの友人や恋人が離れていってしまうことばかりでした。俺は正しいことを言っているのにどうして傷つくのだろう、傷つくほうがおかしいと思っていましたが、その答えがようやくわかった。  しかしその後にやってきたのは恥と後悔の感情でした。取返しのつかないことをしてきてしまって、謝ってもどうしようもないこともたくさんあり、今でも死にたいほどの苦しみを味わっています。これからはその苦しみをきちんと背負い、加害者としての責任を果たしていこう、というのが現在のスタンスです」
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「悪意のない加害者」向けのコミュニティを立ち上げ
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