更新日:2021年08月07日 19:15
スポーツ

レスリング川井梨紗子が金「苦しかったし、本気で辞めたいと思った」

57kg級がそもそもの階級だったのに

 振り返れば、川井はリオでも伊調と同じ58kg級(東京五輪の新区分では57kg級にあたる)で挑むつもりだった。ただ、そのためには伊調と1つの代表枠を争うことになり、まだ21歳と若かった川井は周囲からの助言もあり、悩んだ末にリオに限り階級を1つ上げ金メダルに輝いたという背景があった。だからこそ、次こそは本来の57kg級で勝負したい。川井にとって東京で階級を下げることは当初からの予定だったのだ。  しかし、そんな事情も知らない巷では、当時日本レスリング協会・栄和人元強化本部長からのパワハラ問題が取りざたされていた伊調を潰すために協会が川井の階級を下げたとか、川井が62kg級の妹の友香子(22歳・至学館大学)とともに東京五輪に出たいがため急に階級を変えたなどとの憶測が一人歩きしてしまった。 「おそらく世間のみなさんはリオで金メダルを取ったことで私のことを知ったと思うんです。私は元々いまの階級で、リオのときだけ上げていただけなんですけどね。  馨さんと戦わずに逃げたと思われるのは嫌でしたし、東京では57kgに戻すつもりでした。ただ、そうした話をいくらしても、伝わらなくて……。いろいろな考えの人がいるんだなって勉強になりました(苦笑)」

「もう無理、やめる」

川井梨紗子3 そして、それまで3度対戦しながら1度も勝ったことがなかったにもかかわらず、3勝1敗と勝ち越した伊調との選考レースについてはこう振り返る。 「(’18年12月の全日本選手権は1次リーグで伊調から初勝利を挙げるも)最初の決勝で負けた時は、まだ次の6月の選抜(全日本選抜)で勝てばプレーオフにつながるという状況でしたけど、勝ち負け関係なしに変な注目を浴びるくらいならレスリングをやめようと本気で考えました。その年の年末は実家に帰り、親にも『もう無理、やめる』って言っていましたから。  ただ、母から『勝ち負けに関係なく梨紗子が自分のレスリングをやり切ったところが見たい』と言われたり、(同じく東京五輪を目指していた)友香子が何も言わずにトレーニングに励んでいる姿を見て、徐々に気持ちが戻ってきたというか。12月の対戦時は馨さんが(約2年の)休養から復帰したばかりで、私も現役の世界チャンピオンとして絶対に勝ちたいと思っていました。  でも、そこで負けたことで、6月の選抜はもうあとがなく、とにかくやり切るという覚悟でいったら勝てて、プレーオフも守りに入ることなく自分のレスリングをやり切ることだけに集中していたら勝つことができました。プレッシャーはなかったというか、追い込まれ過ぎてもうやるしかない、そんな感じでした」
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勝ったほうが五輪。異例の注目を集めた伊調馨との最終決戦
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