小田急線刺傷事件の犯人に見る「無敵の人」問題/トイアンナ
小田急線で痛ましい事件が起きた。乗客のひとりが、無差別に刃物で周りを襲い始めたのだ。逮捕された対馬悠介容疑者について執筆時点でわかっていることをまとめると、以下の通りとなる。
・犯行前に万引きをしようとして失敗。女性店員を襲おうとしたが、失敗していた
・「かつてサークル活動で知り合った女性に見下された」「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった」など、女性を恨む発言を繰り返している
・事件の少し前から、生活保護を受けていた
・中央大学理工学部に進学したものの、大学を中退していた。その後は職を転々とし、肉体労働をしていた。今年に入ってからは仕事をしていなかった
・事件でサラダ油をまき、火をつけようとしたがサラダ油がそのような状態では着火しないと知らなかった
情報を並べるだけでも「貧困」「新卒就活での失敗」「女性蔑視」「計画性があったかなかったか曖昧な犯行のようす」など、さまざまな議題が上がってくる。
これら報道のなかでも、「女性を憎む発言をしていた」という一点のみが、ネットでは大きな話題になった。
そして #幸せそうという理由で私たちを殺さないで というハッシュタグで、女性らが自分の幸せそうな暮らしぶりを見せる画像をアップロードする動きが広まった。
<犯行後、小田急線刺傷事件の犯人についてわかっていること>
女性への復讐だけが動機だったのか?
この #幸せそうという理由で私たちを殺さないで 運動に対し、急速に「被害者の感情を無視している」「煽っているようにしか見えない」との反感も広まった。そして、代替案として #迷惑な抗議活動より被害者支援を という呼びかけがなされた。 そして瞬く間に、公益社団法人「全国被害者支援ネットワーク」への寄付活動が盛んになった。この呼びかけに応じ、わずか数日で350人以上が寄付活動に参加したことが明らかとなっている。 私自身も、悲惨な犯罪が起きてしまってすぐに、被害者の回復を願うこともせず、あるいは加害者の実像を洗い出して事件の背景を探ることもせず #幸せそうという理由で私たちを殺さないで の名のもとに写真を投稿する行動には、大きな意味を見いだせなかった。 これが、女性が不当に恨まれた事件であることは間違いない。そして、私たちは、「女だから」という理由で殺される理由などない。だが、その相手へ「幸せな自分」を見せつける必然性はあっただろうか。私にはむしろ、さらなる犯行を煽っている行為にすら見えた。 ここから先は、「そういう意見を持っている筆者である」という前提で話をご覧いただければと思う。小田急線で女性に切りつけた對馬(つしま)悠介容疑者は「幸せそうな女性を見ていると殺したいと思うようになった。誰でもよかった。」と供述しました。あなたの幸せな瞬間の写真を投稿して抗議しませんか?顔は出さなくてもOKです。https://t.co/9djHIvR533
— 笛美「ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生」発売中 (@fuemiad) August 7, 2021
ライター、経営者。主にキャリアや恋愛について執筆。5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。著書に『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)。X:@10anj10
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