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小田急線刺傷事件の犯人に見る「無敵の人」問題/トイアンナ

犯罪へのハードルが低い「無敵の人」とは?

 そもそも、無差別殺傷に走る人(今回は不幸中の幸いにも死亡者は出なかったが、同類の犯罪といえるだろう)は、どういう人か。インターネット掲示板の2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)創設者であるひろゆきさんは、これを「無敵の人」と呼んだ。  普通の人は、逮捕されると仕事や信用を失い、社会的にダメージを追う。罰金刑をくらえば、金銭的負担も大きい。  だが、もともと無職で、罰金を科されても払うこともできない、家族も友人もいない人がいれば、その人には失うものがない。むしろ刑務所で衣食住が保証されるだけ、現状よりも恵まれた環境に行けてしまう。失うものがなければ、犯罪をおかすハードルが下がってしまうのだ。  これをひろゆきさんは2008年に「無敵の人」と名付けた。「無敵の人」はすぐさまインターネットミームとして広まり、現在も使われている。

無差別殺傷事件の犯人は「無敵の人」が多い

 法務省『無差別殺傷事犯に関する研究』を読むと、無差別殺傷事件の犯人は限りなくこの「無敵の人」に近い。犯人の77%が月収10万円以下、または無収入だ。 生計状況 無差別殺傷事件の犯人の学歴を見ると、大卒は4%。厚労省と河合塾のデータを掛け合わせると、平均の12分の1の割合しか大卒がいない。結婚しているのも52人中2人だけ。ほとんどの犯人は結婚していない。これも、日本の平均的な数字から大きくかけ離れている。  無差別殺傷事件の犯人たちには、友人すらいない。犯行時に親密な友人がいた者はわずか6%。犯人には恋人も友人もいない、まさに社会との接点が薄い人が多いとわかる。

溜めをなくすと「無敵の人」になれてしまう

 貧困に詳しい社会活動家の湯浅誠さんは、貧困について「溜め」の概念を繰り返し説いている。貧困とは、単純にお金がない状態ではない。お金と、頼れる人間関係、そして精神的なエネルギー。これら3つが尽きた状態であろう、というものだ。  筆者も、さまざまな人生相談を受ける中で「逆境を乗り越える人と、世間を恨む人の差」について調べてきた。その中で、お金と社会の両方から切り離された人は、瞬く間に「無敵の人」となれてしまうと考えている。お金がなくても助けてくれる友人や親がいる人は、頑張ろうと思える。  しかし、財布も空で、助けてくれる人がいないどころか軽蔑や罵倒を受けている人は、すぐに心がすり減ってしまう。そして、世間を恨むようになる。世間を恨んだとき、狙われるのは「自分より弱者」または「恨んだ相手に似ている誰か」である。 被害者の選定理由 今回の犯人は、世間の代表として恨んだ相手が「女」だったのだろう。 「かつてサークル活動で知り合った女性に見下された」 「出会い系サイトで出会った女性とデートしても途中で断られた」  と、恨みの原因を語っている。  こんな理由で殺されてもたまったものではないが、被害にあったのはさらに恨んだ相手と似た属性を持つだけの他人だ。しかも、犯人は結果として男女問わず傷つけた。結局「この世界全部が憎い、女はその代表みたいなもの」というのが、一番近い感情だったのではないだろうか。
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支援は「弱者を助ける」のみならず
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ライター、経営者。主にキャリアや恋愛について執筆。5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。著書に『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)。X:@10anj10

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