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歌舞伎町で起こった「連続自殺事件」。背景には“数字”に依存する若者たちの姿が

歌舞伎町の若者たちは“数字”に依存していく

ぴえん

イラスト/ツヅキエイミ

 私が歌舞伎町の若者たちを研究するきっかけになったのは’18年10月、冒頭の連続自殺事件のなかの1人を止めたからだ。  ホストの店舗が多い某雑居ビルの深夜、“自殺の名所”的にキャバクラ嬢風の女性たちが配信をする横を通り抜け、私は友達と屋上に向かった。そこにはホストの男性が、いまから飛び降りようとする女性を必死に止めていたのだ。  私たちも号泣する彼女を説得してみたが、返ってきた言葉は「私、生きてる価値あります?」「お金使わなかったら私に価値はない……」だった。聞けば、彼女は風俗嬢。歌舞伎町では10月が閑散期になることが多い。  彼女もうまく稼ぐことができず、担当ホストのバースデーイベントにお金を落とせないことが、自殺に踏み切った動機だったと話す。そんな単純な理由が、彼女たちの命を落とす理由になるのだ。

歌舞伎町における「価値」とは?

 歌舞伎町における「価値」とは何か。この街では「お金を使っていなければ価値はない」「売り上げが高くなければ価値がない」という極端な思考に陥りやすい。夜の世界が自分自身に「数字」という価値をラベリングされる社会だからだろう。  源氏名という文人主義的な新しい名前をつけているとはいえ、夜の仕事が本業になってしまった人間はアイデンティティが源氏名に寄りがちになる。そして、その数値に置き換えて自分自身の価値を考え続けている人は、その数値が悪くなった時にアイデンティティクライシスに陥り、価値がわからなくなってしまう。  50万円をホストクラブで使った日、営業後にホストから「アフターするからね」とホテルで待たされた知人女性は、数時間音信不通後に、「私には50万円の価値もないのかな」という一文とともに手首をズタズタに切り裂いた写真を私に送ってきた。思えばリュックにいつも剃刀を入れ、気軽にリストカットして、生きてる実感を味わうようなコだった。 「売れていなきゃ意味がないから」「指名してくれる人がいるから俺には価値がある」とホストは毎日、毎月、毎年いくら売り上げられるのかを証明し続けていかなければならない。彼らに貢ぐホス狂たちは「百万使えない私に人権はない」「今日稼げなかった。私に価値はない」と愚痴をこぼし、自身を痛めつける……。
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価値の喪失=自分自身の死、存在意義の喪失
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