更新日:2022年01月23日 07:02
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『鬼滅の刃』を分析する神戸大学研究員が注目。「無限列車編・魘夢戦」の重要なセリフ6選

煉獄と炭治郎の「夢」のエピソードは「家族への思い」の表出

◆竈門炭治郎「でももう俺は失った!!戻ることはできない!!」(7巻・第57話「刃を持て」)  煉獄に続き、炭治郎の「夢」もまた「大切な家族」との思い出の場面だった。「夢の中に居続けたい」と涙を流す炭治郎を、つらく厳しい「鬼殺の道」―現世へと戻したのは、「妹を“人間”に戻してやりたい」と願う、長男としての決意だった。  幼い弟・六太の「お兄ちゃん 置いていかないで」と泣き叫ぶ声に、炭治郎の胸はつぶれそうになるが、それでも彼は禰豆子の「生」を守らなくてはならなかった。炭治郎の心は、死んだ家族とともにある。今、炭治郎が「家族」を残していくのは、彼らはきっと禰豆子を助けることを望んでくれるはずだと、炭治郎自身が信じているからだ。家族への信頼が炭治郎の力になる。 ◆下弦の壱の鬼・魘夢「どんなに強い鬼狩りだって関係ない 人間の原動力は心だ 精神だ」(7巻・第55話「無限夢列車」)  煉獄と炭治郎の「夢」のエピソードは、彼らの悲痛な「家族への思い」の表出だった。鬼殺隊の隊士たちがどれほどの辛苦に耐えながら、日々の任務に取り組んでいるのかがわかる。  魘夢は「人間の心なんてみんな同じ 硝子細工(がらすざいく)みたいに脆くて弱い」と言ったが、「弱い心」を奮い立たせて、鬼殺隊は「守るべきか弱き者」のために戦う。奇しくも魘夢の言葉通り、彼らの弱い心・悲嘆の心が、戦うための原動力になった。

善逸の禰豆子への愛情と伊之助の心の変化

◆我妻善逸「禰豆子ちゃんは 俺が守る」(7巻・第60話「二百人を守る」)  孤児の善逸は、炭治郎や煉獄のように家族の夢を見ることはない。しかし、大好きな禰豆子とともに、美味しい桃がたくさん実り、きれいなシロツメグサがある場所を目指して駆けている。おそらく善逸たちがいる場所は、善逸が師匠や兄弟子とともに剣術の訓練を行っていた場所だ。その大切な場所へ禰豆子を連れていくのが、善逸の「幸せな夢」だった。  炭治郎が魘夢との戦闘のため、禰豆子を守ることが手薄になった時、善逸は魘夢の術によって眠ったままであるが、必殺技「雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃」を放つ。ふだんはなかなか「真剣な表情」では愛情を伝えられない善逸だが、眠りながらも、心から禰豆子への愛情を示した。  無限列車編では、魘夢戦後すぐに「上弦の鬼」との連闘になるため、炭治郎は禰豆子の元に駆けつけられないが、善逸は他の乗客を守りながら、ひとり禰豆子をかばい続けた。 ◆嘴平伊之助「腹は大丈夫か 刺された腹は」(8巻・第62話「悪夢に終わる」)
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画像はコミックス「鬼滅の刃」7巻(ジャンプコミックス)のカバーより

 かつて「鼓の鬼」との対決の時には、鬼である禰豆子を殺そうとし、それを守ろうとした善逸に暴力をふるい、炭治郎とも拳を交わすことになってしまった伊之助。「那田蜘蛛山編」あたりから、炭治郎と善逸を仲間として認め、仲間への気づかいを少しずつ見せるようになり、禰豆子とも仲良くなっていく。  さらに「無限列車編」では、自分を助けるために刺された炭治郎の傷を見て、心配を口に出せるようになった。親がおらず山中で猪に育てられた伊之助は、年頃の友人もいないまま孤独に育った。しかし、鬼殺隊の任務の中で、お互いを信頼し、他者を思いやりながら生きることを学んでいくことになる。 「無限列車編」の戦いは、炭治郎、善逸、伊之助の成長が明確になったエピソードだった。しかし、彼ら「かまぼこ隊」の成長には、「大きな喪失」がともなう。“心を燃やして戦う”彼らは、これからさらに厳しい戦況の渦に突入していかねばならないのだ。アニメの続編で、彼らの戦いを見届けたい。 (文/植朗子)
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!
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