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遊郭編・最終回直前。『鬼滅の刃』分析本の著者が改めて魅力を解説

―[鬼滅夜話]―
大正時代を舞台に、人と鬼との壮絶なバトルと登場人物が個々に背負う切ないドラマを描いた『鬼滅の刃』。’16年、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で始まった原作マンガは、’19年のテレビアニメ放映を機にあらゆる世代から注目を浴び、’20年公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は国内興行収入で歴代1位に。その総額は400憶円を超えた。 【ご注意下さい!】この記事には、漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。

『鬼滅』に救われた過去

鬼滅の刃

『鬼滅の刃』10巻(ジャンプコミックス)より

昨年12月から始まったテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』も大反響で、その人気は衰え知らず。アニメ版『遊郭編』最終回を前にますます盛り上がりを見せている。そんななか、分析本として異例の売れ行きを見せるのが、主要キャラ31人のセリフに潜む心情をキャラクターごとに考察した『鬼滅夜話』だ。 著者の植朗子さんは、19世紀ドイツ語圏の伝承や怪異を専門とする研究者。そんな人物がなぜ、『鬼滅の刃』(以下、鬼滅)の分析本執筆に至ったのか。 「もともと『鬼滅』は連載開始時に読んでいたのですが、研究に行き詰まりを感じ、活字中毒の自分が本もマンガも読めなくなった時期があって。それでも仕事はしていて、昼休みに入った喫茶店でふとジャンプを手に取ったんです。『鬼滅』は今どうなっているのかな?と思いつつ読むうちに、バーッと涙があふれてきました。これだけ心が動くんだったら、もう少し頑張って研究を続けてもいいのかなと思えたんです」

作者・吾峠呼世晴のすごさ

いわば、『鬼滅』は恩人のような存在。その頃、『鬼滅』は戦争鼓舞では?という視点から論じようとしている研究グループがあり、同じ研究者として、好きな作品に筋違いのレッテルが貼られるのを止めたいという思いもあったという。では、そこまで植さんを魅了した『鬼滅』には、研究分野とどのような重なりがあるのだろう? 「作者の吾峠呼世晴先生は専門的な内容に踏み込んだところまで怪異伝承にお詳しい。例えば、鬼、笛、刀といったモチーフを扱った作品は他にもありますが、『鬼滅』では必然性のある場面でそれらが使われていて、きちっと物語に作用している。その上で、現代的な要素やオリジナリティを加えて新鮮な物語になっているのがすごい。 例えば、単行本11巻のカバーに描かれた禰豆子。通常、鬼の角は左右に2本、あるいは真ん中に1本という例が多いのですが、ここでは片側に1本だけ角が描かれています。もう1本生えてくるのではと想像させるそれだけで禰豆子は成長過程にあり、今はまだ不完全な状態であることが伝わってきます」
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神話の地で育ったからこそ惹かれた「神様不在の物語」
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1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

鬼滅夜話

キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』


ニュースサイト「AERAdot.」の人気連載・『鬼滅の刃』のキャラクター分析記事を大幅に加筆した『鬼滅夜話』待望の書。2020年12月から始まった神戸大学研究員の植朗子氏による分析記事は、配信されるたびにSNSで話題となり鬼滅ファンからも認知されているようになった人気連載。SNSでの「単行本で読みたい」という声にお応えし、大幅加筆&キャラクターも追加! 炭治郎や禰豆子、鬼殺隊の「柱」メンバー、鬼たちのセリフや行動の裏にあるものとは!? 全352ページで読み応えもたっぷり。鬼滅ファン必携の書!

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