エンタメ

<マンガ&コラム>“表現の原点”と“重大発表”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第五十六夜~

机の下に「お米」が……

そして、今はいい加減気づき始めましたが、大体それが反感を買い、悲劇を生む。 9歳の幼児が、それに気づいていたなら大物でした。しかし、スーパーで値下げシールを貼る店員をストーキングすることばかりに明け暮れる32歳の9歳当時が気づけるはずもなく、悲劇は待ったなしで起こってしまったのです。 「先生、みきちゃんの机の下にお米が散らばってます」 ある日の授業中、後ろの席の少年が先生に訴えた。 みきちゃんは私の本名です。 「米?」 周りの席の子ども達が私の足元を見ては順番に悲鳴を上げていった。 東北の秋は寒い。でも、教室は、暖かい。春みたいに、暖かかった。 足元にあるのは米じゃない。 ウジ虫だった。 大量のウジ虫が、季節の混乱によってどんぐりを突き破り私の机の周りに溢れかえっていた。 「みきちゃん、外に捨ててきて」 若く美しい女性担任は静かな強い声でそう伝えてきた。色白の先生の下瞼は紅潮して泣いているようにも見えた。 私は30cm四方の大きさのお道具袋に溢れかえるウジ達を校舎から一番離れた校庭の隅に持っていった。授業中で誰もいない校庭を突っ切って、卒業生の似顔絵が掘りつけられたトーテムポールの近くにお道具袋をひっくり返した。

頓挫したどんぐり神輿計画

快晴の空の下、ウジを眺めながら陽に刺されるその小さな背中。あの時と変わってしまった私の身体でも、あの時の鼓動をまだ覚えている。 悲しみをバチにして胸の太鼓を噛み締めるように叩いていた。 ドン!ドン!ドン……祭りは絶えた。 このウジ虫達は裸で冬を迎える。 どんぐり神輿計画は、頓挫した。 ……これが、私の表現の原点。 自己顕示欲を満たすための創作でクラスメイトにトラウマを植え付け、沢山の命を奪った。この経験は表現の戒めとして私の心に深く刻まれる……。 「偽物の春に浮かれるな、本物の春を迎えろ……。 幻の神輿じゃない、お前という神輿をかつげ……」ウジ達の声が聞こえる気がします。 これから冬道です、でも、私は進みます。 あの時消えた”みんなの笑顔”を取り戻す表現を、見つけなくてはいけない。 そしてあのウジ虫達の分も、私は生きていかなくてはいけないのです。 ……この神輿の掛け声は、もちろん読者の貴方達。 (無論、片棒を担ぐも良し!) 月一お漫画、乞うご期待!
'89年宮城県出身の役者、ド腐れ漫画家。舞台を中心に活躍後、'19年に「まだ結婚できない男」(関西テレビ)で山下香織役、'20年「いいね!光源氏くん」(NHK)で宇都宮亜紀役など、テレビドラマでも活躍の場を広げる。また、個人表現研究所「ZURULABO」を開設し、漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。好きな言葉は「百発百中」。 Twiter:@zuruart

1
2
3
おすすめ記事