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「風邪と同じではない」コロナ救急医が明かすオミクロンの本当の驚異

 

「オミクロン株は重症化しない説」に違和感

 感染率は高いが重症化率は低い、とされるオミクロン株。だが、訪問診療の最前線に身を置く菊地さんの見方はどうか。 「たしかに軽症の患者さんが大半を占めるのは事実。ただ、みなさん誤解していますが、軽症と言っても熱は40度近く出るのが普通だし、『倦怠感や頭痛、咳の症状の重さは風邪の比じゃない』と訴える患者さんがほとんど。  免疫力が落ちている患者さんで医療にアクセスできない場合、重症化する可能性もある。このまま感染が拡大していけば、重症患者、死者の数は増えていくだろうと見ています。『オミクロンは重症化しないから大丈夫』という論調には違和感を覚えますし、『甘く見ていた。咳が止まらなくて眠れない』と苛まれる姿をたくさん見ています」  ナイトドクター事務局にSOSの電話をしてくる人の多くは後者であり、その場でPCR検査を実施するとかなりの確率で陽性判定が出るという。  菊地は言う。 「いわゆる隠れ陽性者が大勢いる状態。ここ最近、弊社には連日、約4000件もの医師派遣要請の電話がありますが、ドクターやドライバーの人数に限りがあり、実際に訪問して診療できるのは多くても150件程度。辛くて電話してくる患者さんのことを思うと胸が痛みますが、どうしようもありません」

医療崩壊のしわ寄せが民間に押し寄せている

 巷には「オミクロン株は風邪のようなもの」と安易に考える風潮が蔓延しており、第5波以前のような緊張感がないのは明らかだろう。しかし、 「オミクロン禍ならではの特性が、これまでとは違う種類の危機を引き起こしている」  と語るのは、事務局に登録しているERドクター(救急医師)のA氏だ。 「感染率が非常に高いので、これまで以上に医療従事者たちが警戒し、発熱のある患者を断る病院も急増しています。仮に無症状や軽症であっても、医療従事者が感染してしまうと病院の機能がストップしてしまいかねないから、です。  この取材で私が名前を名乗れないのも、救急で働いていることを周囲に知られたら余計な混乱を招く懸念があるからなんです……。今は受験シーズンということもあって、相当ピリついています。実際、中学受験組のご家庭は受験生を登校させず、ご家族もリモートや休暇を使って休み、ウイルスから逃げるような生活をしています。『病院や街の検査場に行くのが怖い』というのが、我々を呼ぶ動機でもあるのではないかと」  病院にも行けずに自宅で苦しむ患者や、感染の恐怖に苛まれる人たちにとって、医師が自宅まで来てくれる訪問診療は数少ない頼れる存在だ。しかしながら、医師たちは仕事を誇るどころか隠さねばならない現実もまた、新型コロナウイルスがもたらす弊害と言えるかもしれない。  取材で訪れた夜、記者はA医師に同行し、夜間の訪問診療の現実を目の当たりにした。
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「こんなに辛いの初めて」訪問診療の現場に同行
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