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賛否があった「下北線路街」開発秘話。小田急が気づいたまちづくりで大切なこと

200回以上の打ち合わせで気づいた「下北沢らしさ」とは

 2022年1月には下北沢駅南西部の一角に新たに「NANSEI PLUS(ナンセイプラス)」の中核となる商業施設が開業し、いよいよ下北線路街のプロジェクトも大詰めを迎えていると言えよう。
NANSEI PLUS

2022年春に世田谷代田方面にある「ボーナストラック」への全面開通に向け、下北沢駅南西部エリア「NANSEI PLUS(ナンセイプラス)」の開発が進む

 橋本さんは「再開発に対する反対派が多い状況の中、さまざまなプレッシャーはありましたが、たくさんの地域の方々に助けられた」と顧みる。 「ここ4年間で大小合わせて200回以上の打ち合わせを重ねてきました。下北沢の商店街、町内会、議員の方などさまざまな方と顔を合わせたり、電話で説明したり、ときには飲みの席で熱い話をしたり……。とにかく必死になってコミュニケーションしてきましたね」  また、下北沢の生活に入り込み、地域の人の声に耳を傾け続けたからこそ、気づいたことがあるそうだ。 「再開発自体が駄目なのではなく、小田急だけで勝手に進めていくことに反対していたんです。まちづくりを進めるなら、『私たちも一緒に考えさせてほしい』と。地域を愛し、よりよくしたいと思う住民の本音はここにあったんだと、下北線路街の開発に携わるなかで感じるようになりました。  その根底には『自分たちが思い思いに好きなことをしている場が“シモキタ”であり、その場が再開発で脅かされるのではないかとの不安があったからだと思うんです。こうしたバックグラウンドを尊重し、『地域のプレイヤーがもっと関われるためにはどうすればいいか』というのを、常に念頭に置くことを忘れないようにしています」

下北沢の街を編集し、メディア化させていく

 下北線路街が全面開業した後、下北沢の街における将来像はどのように描いているのだろうか。  橋本さんは「人が変わってもまちづくりが継続できる仕組みを作りたい」と話し、このように未来を見つめる。 「小田急の担当者が変わっても、街が自走できる状態を目指したいと思っています。地域住民の声に耳を傾け、新旧の文化を融合させ、“発酵”のように新しいものが自然と生まれるようになるのが理想です。今まさに挑戦しているのが、みんなで街を作り、一緒に街をマネジメントしていくこと。街としての課題は複数ありますが、特に大きいのがお金の問題です。イベントや出店など、何かやろうとすれば資金が必要になるわけで、そこの課題解決を図る試みとして『街の媒体化』を企画しています」  下北沢という、ある種独特のカルチャーと地域性を持つ街のパワーを生かし、街全体を生かした法人や個人のプロモーションを行える座組みを構築しているそうだ。 「街の価値を可視化して、それに共感する人たちがイベントを開催し、協賛金等を集めて費用を自給自足したうえで、さらに余剰金をまちづくりの活動に還元していくモデルを構築したいと思っています。これまで作ってきた地元のネットワークがあるので、お互い協力しながら形にしていければと考えています」  かつて、下北沢は線路を隔て南北が分断されていた。それが、地下化によって踏切も線路もなくなったことで、人の動線が変わり、街に新しい息吹が生まれた。 「下北線路街を、街の共有部としてどう活用していくかが鍵」と語る橋本さんに、今後の展望を最後に聞いた。 「下北沢には老若男女問わず、多様な人が集まります。先ほどもお伝えしましたが、下北沢のまちづくりは発酵がキーワードだと思っています。ユニークな考えやアイデアが混ざり合い、下北沢から面白いものが生まれるように環境を整えていければと思います。加えて、街の魅力を高め、メディア化していくためにも、小田急は街全体の底上げに寄与できるように支援型のまちづくりに尽力していきたいと思います」 <取材・文・撮影/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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