話を聞けば聞くほど相手を疲弊させてしまう人々の特徴とは
「わかりたい」からと、「納得いくまで説明させる」人たち
DV・モラハラ加害者が、愛と配慮のある関係を作る力を身につけるための学びのコミュニティ「
GADHA」を主宰しているえいなかと申します。
僕自身もDV・モラハラ加害者です。仕事や家庭が破綻寸前になり、自分の加害行為や背景にある加害的な価値観を自覚して改善。現在は妻に「お互いの安全基地になれたね」と言ってもらえるようになりました。
この連載では、僕自身の経験やコミュニティでの気づきを共有していきます。職場や家庭でモラハラに苦しんでいる方々、無自覚に加害を行っている方々の参考になれば幸いです。
GADHAでは、多くの加害者が変容を目指して学び、それを実践しています。一度でうまくいけば良いのですが、実際には「やってみたけど失敗した」「却って傷つけてしまった」とうまくいかなかった報告をしてくださる人も少なくありません。
その中でもよくあるのが
「相手の話を聞くことが大事だというので傾聴していたらうまくいかなかった」ということです。一体何が起きているのでしょうか?
GADHAでは、相手のニーズを知り、それをケアすることを重視しています。このためには、相手のニーズを知る必要があります。
ニーズとは「損なわれるととても傷つく、大切にしていること。しかし自分では完全に満たすことのできないもの」とここでは簡潔に定義しましょう。
逆にいうと、
加害とはこのニーズをケアしないことと言うこともできます。多くの加害者は、相手のニーズを理解することもできなければ、それをケアすることもできないのです。
だからこそ、変わりたいと願う加害者にとってニーズを知る能力を身につけることはとても大切なことです。にも関わらず、
そのニーズを知ろうとする努力自体が加害になってしまうというのだから根が深いと言わざるを得ません。
具体例をみてみましょう。
「子育てで男の子らしくとか女の子らしくとかあんまり言いたくないの。だから、あなたも子どもが泣いている時に男なんだから泣くなとか言わないでほしい」
例えば、こんなことをパートナーに言われたとしましょう。
これまでであれば「別にいいだろ。男は社会で泣いてなんかいられないんだから。お前に子育てを任せてたら軟弱に育ちそうで心配だわ」などと言っていたモラハラ加害者が、傾聴に挑戦します(※ここでは加害者側を夫、被害者側を妻と仮定して進めます)。
夫「そうか、男なんだから泣くなと言わないでほしいんだ。男らしく、とかってことがダメなんだな。じゃあ例えば子どもが格闘ごっこをしたがったときはどうしたらいい? 前に遊んでたら『やっぱり男の子はそういうのが好きなんだね』って言ってたけど、やめたほうがいい?」
妻「ううん、子どもがしたくて楽しんでいることを止める必要は全然ないよ。でも、男なんだから格闘ごっこをしよう! と誘わないでほしいかな。他の遊びをしたがったら、それが男の子っぽくないことでも付き合ってあげてほしい」
夫「そうなんだ。でもそうすると男らしい遊びはしてもいいってことなんだよね? それによって男らしく育つことについては別にいいってこと? ごめん、ただ正確に知りたくて」
妻「そうだね、男らしくというか……その子がしたいことをしている時に、男の子らしいとかを持ち出さなくていいってこと。その子らしく楽しんでくれてたらいいわけだから」
夫「いや、でもそうするとそもそもの目的がわからなくなってきた。その子らしく育てたいってことだったら、新しい遊びとかやるときはどうしたらいい? いちいち君に確認した方がいいってことになるのかな?? でもそれって結局……どうも理屈がよくわかんないな……」云々。
妻「もういいや、ちょっともう話したくない」
夫「おれはせっかくお前のニーズを理解しようとしているのになんで不機嫌になるんだよ!」
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「
GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:
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