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ロシアのウクライナ侵略が日本の「対中政策」に与える影響。中国は漁夫の利を得ようとしている?

「米軍は出動しない」という発言が意味すること

米中と経済安保

一般教書演説でプーチンを「独裁者」と批判するも、中国への言及は少なかった

 3月1日に行われたバイデン大統領による一般教書演説でも、やはり「米軍は出動しない」ということを明言した。 「そもそも民主党であるバイデン政権は国務省との連携は強いものの、米軍との連携は弱い。また、党内は極左と穏健派で真っ二つに分断しており、まともにまとめることすらできていません。  このような不安が残る状態で、バイデン政権はロシア・ウクライナ情勢に対峙しています。今回のバイデン大統領による一般教書演説でもロシア・ウクライナ問題ばかりで、『中国』や『インド太平洋』という言葉はほとんど出てこなかった。  トランプ政権時には『インド太平洋戦略』として軍事も外交もインテリジェンスも対中シフトしたのに、バイデン政権ではロシア、ウクライナ、欧州方面に注力すると言って、意図的か不用意かわかりませんが“米国は本気で中国と対峙することをやめた”というメッセージを一般教書演説で全世界に送ってしまったのです」

戦略的環境は急激に悪化

 もう一つ大きいのが欧州だ。 「日本としては『日英同盟』の復活も含め、イギリス、フランス、ドイツも引き込んで対中ネットワークをつくろうとしたのですが、NATOもイギリス軍も当面はロシア・ウクライナ情勢に専念することになってしまいました。ということは、米国もイギリスもフランスもNATOもロシアを向き、中国に対峙しようとするのは日本とオーストラリア、台湾ぐらいになり、戦略的環境は急激に悪化しているのです。  なおかつ、バイデン政権の国家安全保障戦略を策定する中心メンバーをロシア問題の専門家に委ねると言い始めています。こうなるとバイデン政権の中国シフトは弱くなり、アジアにとって極めて危険な状況になりかねません。よって岸田総理もバイデン政権が主導する対ロ金融制裁に参加するとともに、急遽、インドを訪問し日印首脳会談を実施し、改めてQuadを強化しようとしているわけです」
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ウクライナ侵攻のウラで中国の「漁夫の利外交」
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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