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ロシアのウクライナ侵略が日本の「対中政策」に与える影響。中国は漁夫の利を得ようとしている?

ウクライナ侵攻のウラで中国の「漁夫の利外交」

 日本の戦略的環境がこれほど悪化していくなかで、江崎氏は「中国が漁夫の利を得ようとしている」と危機感を募らせる。 「3月8日、米国とイギリスはロシア産の原油、天然ガス、石炭などの輸入を禁止すると発表しました。しかしロシアはこれを見越したかのように、中国に天然ガスをパイプラインで30年間供給する契約を2月に結んでいます。経済制裁を受けるロシアからすると、天然ガスなどの売り先はもう北京しかない。逆に北京は『買ってやるぞ』と恩着せがましく、しかも国際価格よりも安く買い叩くことができた。  これで、中国が中央アジアに進出していくことをプーチンは黙認せざるを得なくなり、中央アジアへの影響力をさらに強めていくことが予想されます。だからこそバイデン政権は中国に対して対ロ支援をしないよう圧力をかけているわけです」

3つの核保有国といかに対峙していくか

 米ハドソン研究所研究員の村野将氏は、外務省が発行する外交専門誌『外交』Vol.71で「日本が直面する安全保障環境と戦略見直しの諸課題」という論文を寄稿している。ハドソン研究所は、安倍政権が米国と外交、安全保障、インテリジェンスのネットワークをつくっていくときに重要なパイプ役となった米シンクタンクだ。 ====== 「核なき世界」を掲げたオバマ政権は、米国が率先して安全保障における核の役割を減らしていくことで、他国もそれに追随して世界がより安全になっていくことを期待していた。しかしその後の十数年間で、世界は真逆の方向に進んだ。ロシアは、西側諸国との軍備管理上の約束をことごとく破り、一四年には核による脅しをもちらつかせてクリミアを併合した。台湾への圧力を強める中国は、核戦力の備蓄・配備状況や運用の実態に透明性がなく、二一年には公開情報分析によって、二〇〇ヵ所以上のICBM発射施設を新設していることが発見された。これは長年中国がとってきた最小限抑止戦略を逸脱する動きである。そして、北朝鮮の非核化は全く進んでいないどころか、ミサイル戦力のさらなる多様化に突き進み、連日発射実験を繰り返している。  これらの国々は、核の脅しを背景に、米国が介入意思を固める前に通常戦力による現状変更を達成しようという、おおむね共通した戦略を持っている。つまり、米国とその同盟国は史上初めて、現状変更を意図する三つの核武装国を同時に抑止しなければならない状況に置かれている。 ======  村野氏のこの論文を受け、江崎氏はこう話す。 「オバマ政権時に『核なき世界』なんてことを言ったから、ロシアも中国も北朝鮮も増長して核戦争の脅威が高まってしまった。それを前提に、核を使って現状変更を求めようとする3つの核保有国にどう対峙するべきか、日米NATOの連携を強化し、3者間で戦略のすり合わせをすべきだということ。 『外交』という雑誌は基本的にはリベラルで核をなくそうといった論調だったのですが、その外務省でさえ『核なき世界』ではもうダメだという論文を載せている。岸田総理は一国のトップとして、核戦力を持つ中露にどうやって対抗するのか考えないといけません」 構成/SA編集室 写真/時事通信社
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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