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コロナの責任を中国に問うトランプ政権、日本の立ち位置は?/江崎道朗

ニュースディープスロート/江崎道朗

インテリジェンス機関「国家情報官室」と米軍のトップは武漢研究所流出説について否定的だったが、トランプ大統領や国務長官は中国による隠蔽責任を追及する姿勢。対外インテリジェンス機関を持たない日本はトランプ政権に同調するのか

中国の責任を問うトランプ政権内部の対立

 アメリカでの新型コロナウイルスの被害が拡大しており、トランプ政権は厳しい批判に晒されている。5月13日の時点で死者は8万人を超えた。  なぜこれほど悲惨な事態になったのか。その政治責任を問う声が高まるなか、早くも3月24日、米下院の与野党議員が「中国政府がウイルス発生当時の初動対応を誤ったせいで全世界に感染を拡大させ、多数の死者を出した」とする非難決議案を提出している。  連邦議会と連動してトランプ大統領も4月17日の記者会見で「中国当局は武漢で発生したこのウイルスの拡大を効果的に防ぐことができたはずだ」「中国政府の責任は多様な方法で追及されなければならない」と明言した。  ただし、中国の責任を追及するためには確かな情報が必要不可欠だ。そしてその情報を懸命に集め、分析・総括するアメリカのインテリジェンス・コミュニティのトップ、国家情報官室(DNI)が4月30日、否定的なプレスリリースを出した。 「新型コロナ=生物兵器説」と「遺伝子組み換え説」を否定したうえで、「武漢研究所流出説」や「意図的に中国が流出させた説」については「引き続き厳密に調べる」と述べるにとどめたのだ。  米軍制服組のトップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長も「生物兵器説」に否定的で、武漢研究所流出説についても「現時点で決定的な証拠があるわけではない」と疑問を投げかけている。

トランプ大統領も中国の責任を追及

 インテリジェンス機関と米軍両者のトップの否定的な見解を受けて、トランプ大統領は5月3日、「中国はひどいミスを犯し、それを隠そうとしたのだろう」と、隠蔽責任を追及する方向へ軌道修正した。  ポンペオ国務長官も「中国に責任を取ってもらう」としながらも、「研究所から流出したのか、ほかの場所からなのか、確信があるわけではない」と言葉を濁した。

米政権内での対立。中国の責任を追及するトランプ大統領

 大統領、国務長官と軍、インテリジェンス機関とはかなりの温度差があるということだ。  2003年3月、アメリカやイギリスがイラク戦争を始めたが、その理由は「イラクが大量破壊兵器を開発・保持している」ということだった。実はこのCIAの報告が、イラク戦争後に「嘘だった」ことが判明した。  その反省に基づいてインテリジェンス機関も軍も、立証可能な証拠に基づく情報を提示しようとしているわけだ。  もっともトランプ政権は2017年に公表した国家安全保障戦略において、中国を事実上の「敵」と認定している。しかも、新型コロナによる経済的損失も膨大である。よって「隠蔽責任」に関する証拠を集め、中国を追い詰めていくだろう。  このトランプ政権の動きに同調するかどうか、日本政府も決断を迫られることになるが、対外インテリジェンス機関を持たない日本は、その根拠となる情報をトランプ政権に頼るしかない。その悲哀を噛みしめる政治家、官僚、知識人が増えることを心より期待している。
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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