ライフ

東京のマンション名にみる「意外な共通項」シャトー、プラザ、フラットetc.

シャトー、プラザ、フラット…氾濫する外国語

 一方、集合住宅を表す外国語の冠詞的表現は「マンション」から始まって時代とともに大きく変化した。現在の新築物件でマンションという名称は見かけなくなったが、デビュー期の六〇年代に建築されたものは、<小田急麹町マンション><碑文谷マンション>のように当たり前のように使われていた。その中で青山、赤坂、麻布の都心の一等地の高級ブランドとして名を馳せた秀和は、当時から「レジデンス」という名称を使い、<秀和南青山レジデンス>といった独自のネーミング体系を確立した。  このレジデンスに端を発し、その後どこから探してくるのか奇妙きてれつな集合住宅を表す外国語が次々と登場する。コート、フラット、プラザ、シャトー、ホームズなどの英語系が出てくるのは当然として、次にはアビタシオン(仏)、ハイム(独)、カーサ(伊)、ドムス(ラテン語)など英語以外で家を表す名称が登場、パークハイム(英+独)、ソフィアコート(ギリシャ語+英語)の合わせ技になり、ついにはアルカディア(古代ギリシャ語の地名)にまで至った。こうなると集合住宅を直接明示するような名称は底をつき、パストラル(田園の)、インペリアル(荘厳な)、グレイス(優雅な)などの形容詞に広がっていく。

競走馬か喫茶店の名前か…

 最近の新聞の折り込みチラシや雑誌を見ると、マンションの名前はいよいよ意味のわからない世界に入り込んでしまった。ざっと挙げてみてもゼファー、シークレフ、フェアロージュ、アルトラージュ、ヴュルレージュ、デルソーレ、ベルドゥムール、プリマヴェーラなど、前後に地名がついていなければ車か競走馬か喫茶店の名前かと勘違いしそうなぐらいだ。さらに驚くほど長い名称まである。東急ドエルプレステージ池田山クレアモント(二十文字)、ライオンズマンション門前仲町古石場パークサイド(二十三文字)、TOKYOベイフロントプロジェクト・ルネ・グランマリーナ潮見(三十文字)などがあるが、このような長い名前の集合住宅へ住んでいる人へ手紙を出す時、宛名にマンション名を書く気はしない。  最近のマンションの名前が簡潔明瞭でないのは、マンションの数だけ名前があるから、類似を避けるためにはやむを得ないだろう。これら膨大な数のマンションの名前には、次々と新しい言葉を生み出す革新性と、伝統的な地名を守る保守性の相反する価値が共存する。これは、大げさにいえば東京の町を象徴する隠れた文化資産ともいえるのではないか。
1
2
あの頃、VANとキャロルとハイセイコーと…since 1965

1960年代以降のさまざまなカルチャーを縦横に語る

おすすめ記事
ハッシュタグ