映画『俺たちに明日はない』の原題は?センスが光る“映画の邦題”を掘り起こす
洋画のタイトルは、日本語に直訳したものから、原題をそのままカタカナ表記にしたもの、そして原題とはまったく異なる邦題がつけられたりと様々である。改めて掘り起こすと意外な発見や楽しさがあることは、フジテレビの伝説的深夜番組を企画してきた金光修氏の著書『あの頃、VANとキャロルとハイセイコーと…since 1965』からもわかる。
60年代以降のカルチャーを縦横に語った同書から、一部を抜粋して転載する。
映画のタイトルは、カタカナより日本語のほうがぴんとくる。ヒッチコック監督の“REAR WINDOW”には「裏窓」、ワイルダー監督の“THE APARTMENT”には「アパートの鍵貸します」という邦題がついている。このおかげで、内容への想像力が掻き立てられ、親しみやすい作品としての印象が残る。しかし、00年代のメジャー映画のタイトルは、『タイタニック』『アルマゲドン』『グラディエーター』と原題をそのままカタカナにすることが多くなってきた。これを青少年の英語力向上と喜ぶことなのか、日本語の商標価値が低下したと嘆くべきか難しいところだ。
かつてはオードリー・ヘップバーンの“SABRINA”を『麗しのサブリナ』としたり、マックイーンの“LE MANS”を『栄光のル・マン』にしたように、原題にちょっとした日本語の形容句を付け加え、タイトルを作品のイメージに近いものにする方法がとられた。その例に倣って最近のカタカナタイトルに日本語をつけると「愛と絶望のタイタニック」「絶体絶命アルマゲドン」「皇帝への復讐グラディエーター」のようになるが、どうだろうか。この邦題例に違和感を覚えるとしたら、これらが大ヒット映画でカタカナのタイトルが耳になじんでしまっているという理由と、日本語はダサいとか格好悪いとかいうカタカナ至上主義の観点と、原題に忠実なほうが高尚であるというインテリ的な教科書的観点からだろう。しかし日本独自の邦題もなかなか捨てがたい味わいがあると思うので、過去の作品例から邦題について少しひもといてみたい。
一九五〇年代までの名作には『喝采』『慕情』『哀愁』『旅路』『旅情』『望郷』などの漢字二字熟語のタイトルが多い。『喝采』の原題は「田舎娘」(“THE COUNTRY GIRL”)だし『哀愁』の原題は“WATERLOO BRIDGE”であるように、これらは元のタイトルとは関係なく作品内容からつけられた日本語のオリジナルタイトルである。少し商魂が見え隠れする題のつけ方のような気もするが、二字熟語にしたとたんに、大作を期待させる迫力と、人生の悲哀が感じられそうな気になるから不思議だ。その後も『追憶』『帰郷』『黄昏』などの二字邦題作が出たが、タイトル向きの二字熟語も無尽蔵にあるわけでもなく自然に廃れてしまったようである。
邦題の中には、原題を日本語に置き換えただけで様になるものがある。ジーン・ケリーのミュージカル映画の傑作『雨に唄えば』(“SINGIN IN THE RAIN”)やフランク・キャプラ監督のアカデミー作品賞受賞作の『或る夜の出来事』(“IT HAPPENED ONE NIGHT”)やフェリーニ監督の大作『甘い生活』(“LA DOLCE VITA”)やヒット作『ブリジット・ジョーンズの日記』(“BRIDGET JONES’S DIARY”)など、直訳しても立派な日本語タイトルとなり、その邦題が後々まで語り継がれるものも多い。
センスある邦題は想像力が掻き立てられる
50年代までは多かった漢字二字熟語の邦題
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『あの頃、VANとキャロルとハイセイコーと…since 1965』 1960年代以降のさまざまなカルチャーを縦横に語る |
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