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「ハイブリッド戦争」時代における対外インテリジェンス機関の重要性とは

日本のインテリジェンス機関の活動は国内に限定

 日本のインテリジェンス機関について、江崎氏は「予算の増加と民間連携の必要性」を指摘する。 「日本にも公安調査庁や外事警察、自衛隊情報本部などのインテリジェンス機関はありますが、その活動は国内に限定されています。米国には17のインテリジェンス機関があり、その予算として約8.7兆円ありますが、日本のインテリジェンスの総予算はわずか約331億円。実にアメリカの260分の1にすぎません」  さらに米国では官民連携によって、民間側にインテリジェンスの専門家が多数生まれているという。 「多摩大学大学院教授でルール形成戦略研究所の國分俊史所長によると、’10年前後の米国のインテリジェンス機関の民間企業活用状況は次のようだったと言います。 ●’08年、インテリジェンスコミュニティの総人数の29%は民間企業 ●56社の民間語学エージェント会社が書類の翻訳や傍受電波の解読を支援 ●国家安全保障局では少なくとも民間企業480社を活用 ●CIAは100社以上の民間企業からの出向者が1万人に達し、’12年時点でCIA職員の30%を民間からの出向者が占めていた ●国土安全保障省には同省職員と同数の人員が300社超の民間企業契約社員として供給されていた  経済インテリジェンスにおける官民連携によって、民間側にインテリジェンスの専門家がたくさん生まれています。日本もインテリジェンス予算を増加させ、民間のインテリジェンス専門家の養成に力を入れていくべきです」

欧米と連携、国益も尊重する外交とは

 ハイブリッド戦争が繰り広げられている今回のロシアによるウクライナ侵略だが、日本に直接的な攻撃や報復はあるのだろうか? 「日本は英米諸国と連携してロシアに対して金融制裁を実施していますので、ロシアからすれば利敵行為と見なされていると思います。金融制裁はロシアにとって深刻な問題であり、だからこそ日本に対して報復としてサイバー攻撃や、経済制裁を仕掛けたいと思っているでしょう。  しかし、ロシアがうかつに制裁に動けない理由が、極東シベリアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2プロジェクト』です。ロシアとしては欧米からの経済制裁で、欧米向けの天然ガスや石油の取引は制限されていくことになります。  よって日本がこのサハリン2プロジェクトを維持している限り、ロシアに対するカードになるわけで、ロシアとしては日本に報復しにくいわけです」
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岸田政権の動きに注目
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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