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ロシアへの金融制裁に踏み切った背景とは?日本が選択したもの

海外依存を減らすだけでなく、日本の強みを強化していく

 この戦略的自律性の維持・強化の対象となる産業を「戦略基盤産業」と呼び、例えばエネルギー(電力を含む)、通信、交通、食料、医療、金融(フィンテックを含む)、物流、建設等の基幹的なインフラ産業などが対象となる。 「ところが、日本にとって重要な戦略基盤産業は何か、現状どうなっているのか、政府として包括的な調査や評価が行われてきませんでした。このため、情報化社会の到来とともに通信機器の大半が外国製になってしまっていることなどにも明確な対応がなされてこなかったわけです。  そうした反省に基づき、政府はまず現状把握に努めるべきだとしています。そして、『戦略基盤産業』として対処すべき産業をより明確に把握し、政府主導でその分野を強化することが日本の安全保障にとって重要だと指摘しています。  これまでも石油などのエネルギーについては政府主導で備蓄などの対策がとられてきましたが、いまや産業分野でも政府主導でテコ入れが必要な情勢が生じているということです」  戦略基盤産業の重要性は、外国への依存を減らしていくということだけではなく、日本の強みをさらに強化していくという側面もある。「戦略基盤産業」は、いわば国家の生存と独立に直接的に関係し、国の繁栄の基盤をなすものなのだ。

「武器を使わない戦争」で負けないための政策

 2つめのキーワードである「戦略的不可欠性」について、「提言」ではこう規定されている。 ========= 戦略的不可欠性とは、国際社会全体の産業構造の中で、わが国の存在が国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大していくことにより、わが国の長期的・持続的な繁栄及び国家安全保障を確保することを意味している。 ========= 「例えば“情報産業のコメ”と呼ばれる半導体の生産において、フォトレジストという特殊な化学物質が必要になりますが、世界シェアの9割を日本企業が占めています。こうした日本の得意分野を増やすことで、経済を使った嫌がらせなどに対しては断固たる対抗手段を講じていく、という意味合いです。  要は日本が国民生活と経済活動にとって、どの分野が過度に外国に依存しているのか、どの分野が日本の独占的分野・強みなのかをまず徹底的に調べあげて『戦略基盤産業』を確定する。  そのうえで依存している分野をいかに減らし、強みのある分野をいかに増やすかを念頭に経済・通商政策を見直し、世界的な経済安全保障という『武器を使わない戦争』で敗北しないようにする、と言っているわけです」
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ロシアによる侵略は「人類の文明の進歩に逆行する行為」
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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