エンタメ

東大生たちが本気で語る実話怪談。偏差値75の世界でみえる恐怖体験とは

東大生の“自意識”と“恐怖体験”が絡み合う人生

出版されたばかりの『東大怪談』。清野とおる氏が、帯コメントを寄せている。

出版されたばかりの『東大怪談』。清野とおる氏が、帯コメントを寄せている。

――「偏差値75の怪談」という最初に議題設定された方向性、これは思惑通りに取れましたか? それとも、予想以上の収穫があったとか…? 豊島:まず、東大出身者は、科学的、客観的な目線で自分の怪奇体験を分析するんじゃないかと。そういう彼らの目を通して語られる体験は、より純度が高いんじゃないか…という仮説を立てて始まったんですが、実際に話を聞いてみると、「自分は東大生だ」という強い自意識があって、「自分が体験したことに間違いはない、事実だ」という主観の方が強く、リテラシーが高い人たちに期待した客観的な考察はあまり見られなかったのが意外でした。  それよりも、東大に入った人たちの人生の複雑さであるとか、困難であるとか、そういう一人ひとりの人間ドラマが面白くて。数多ある怪談本のように、UFOならUFO、幽霊なら幽霊という事象で章立てすることも考えていたんですが、これは“話者”で区切った方が面白いだろうと方針を転換し、最高学府と言われる奇妙な場所=東大に入った人たちの壮絶な人生そのものにフォーカスすることにしました。 ――実際、読み進めると、話者のパーソナリティーが際立ってきて、それと怪談が絡み合ってくると、なんだか得体の知れない面白さがこみ上がってくる。そういった意味ではどのエピソードも秀逸でしたが、話者と対峙した豊島監督の中でお気に入りのエピソードはなんですか? 豊島:どれも思い入れがあるんですが、1つは『牛人間に呪われた男』。体験者が少年時代に山奥で「牛人間」と出くわしてしまう話なんですが、怪談としても面白く、掲載した心霊写真も相当怖い。でももっと恐ろしいのは、彼は義理の父親に毎日のように虐待を受けていたという事実であり、にもかかわらず大人になった彼は虐待を受け「牛人間」を見た現場に何度も立ち戻っていくという事実です。何か物凄い人間の業みたいなものを強烈に感じました。  あと、統合失調症と診断された方のお話の、『救世主になった男』も衝撃でした。入院中の病院で彼は様々な怪奇体験をするのですが、それは怪異なのかそれとも病気の症状なのか。自身のことをノストラダムスの大予言で謳われた「救世主」だと思い込んでいた彼は、「将来、宇宙人が人間と話すとき英語を使ったら、それは救世主としての僕が彼らと取り決めたことですから」と真顔で言うわけです。聞き手はそれをどう捉えればいいのか。少年時代に天才と呼ばれた神童が東大に入って挫折を味わった挙句に、統合失調症にかかり非常に特殊な体験をしてしまう、そういう視点に立つと、これこそが『東大怪談』と言えるのだろうという思いを強くしました。 ――最後の「トラウマプロデューサー」は、ちょっと違った意味で強烈でした。飛田新地(大阪の歓楽街)で酷い目に遭う少年時代の話が面白すぎて(笑) 豊島:これ、怪談を超えて“猥談”ですよね。インタビュー中は大笑いして聞いていたんですが、いざ文字に起こしてみたとき初めてその壮絶さに気がつきました。「こんな酷いこと載せて大丈夫かな」って思い始めて、編集の角さんに一応確認したら「大丈夫でしょう!」と背中を押してくれたので、お弔いみたいな気持ちで書きました。

話者の個性を際立たせる東大ポイント&アンケート

『東大怪談』を上梓した豊島圭介監督――話者ごとに東大ポイント(豊島監督の総括)とアンケートが掲載されていますが、これによって、それぞれのパーソナリティーが色濃く出たと思います。豊島監督はどんな印象を持たれましたか? 豊島:アンケートを発案したのは角さんなんですが、その中の、「人間とはなんだと思いますか?」という質問が面白かったですね。僕がインタビューで2~3時間、お話を聞いただけでは出てこなかったパーソナリティーがそこに出てきて、「え、そんなこと思ってたんだ」っていう驚きがありました。「人間とは何か」という漠然とした質問だからこそ出てくる本質というか、「なるほど、こういう背景の人がこの怪談を語ってるんだ」っていう意味でとても興味深かったです。 ――東大ポイントのところは、パーソナリティーも含めたまとめの役割になっていましたね。 豊島:そうですね。やっぱり東大出身者って歪な人が多いと言われてるし、実際、歪な人だらけだったんですが、「彼らの話を全部鵜呑みにしてるわけじゃないぞ」っていう僕のスタンスと、「この人、ツッコミどころ、たくさんありますから」っていうことをこっそり読者に教えるみたいな役割も実は担っているんです。
次のページ right-delta
東大出身の著者の、アンケート用紙公開!
1
2
3
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)

記事一覧へ
「東大怪談」 東大生が体験した本当に怖い話

日本の最高学府である東京大学出身者11人が体験した怖い話
おすすめ記事