村上もとか著（集英社） 　皆さんは、明日江戸時代にタイムスリップしてしまったとしたらどうしますか？　江戸時代というと遠い昔のように思えてしまいますが、令和・平成・昭和・大正・明治・江戸と辿ってみると、意外と今の時代と地続きであることが実感できます。 　具体的に数字を挙げても、今から数えてほんの150年も遡れば江戸時代ですから、そこまで昔というわけではないのかもしれません。 『仁―JIN―』は現代に暮らす医者が幕末期の江戸へタイムスリップしてしまう話です。「現代知識」を利用して過去や異世界でやりたい放題する作品が近年、無数に登場していますが、この作品はそうした作品の先駆けといえるのかもしれません。 　主人公である医師の南方仁は、江戸へ持ち込んでしまった現代の医療知識を決して私利私欲のためには用いません。むしろ、現代の知識を過去に持ち込んだことによって、未来が変化してしまうのではないかという葛藤に悩まされ続けることになってしまいます。 　我々が教科書を開けば知ることのできるようなことでも、その事実が発見されていない昔にタイムスリップしてしまえば、「新発見」となるわけです。 　そうなったとき、教科書には「発見者」として自分の名前が載ることになるのでしょうか？　そうなると、本来の「発見者」はどうなるのでしょうか？ 　タイムスリップ作品の金字塔である本作は、全部で20巻(文庫版でも13巻)と、10日間の休みもあれば読破できる長編マンガです。遠出はなかなか難しい日々が続きますが、こんなときだからこそ江戸の町へ思いを馳せてみるのもいかがでしょうか。