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夫の悪口を言いふらしていた妻。夫は「傷ついた」と伝えるべきなのか?

相手の痛みを受け容れられないのに、自分の痛みを「わからせようと」する権利はない

 ここでまず考えなければならないのは、「悪口を言わなければ耐えられなくなるほどの加害をしたのは誰か?」という点です。加害者は、この「出来事の順番」に非常に敏感であるべきだと僕は考えます。  先ほど僕も質問したように、パートナーが最初から西村さんに攻撃的な態度を取っていたとは考えにくいです(そもそもそんな人とは結婚をしない)。西村さんが相手を深く傷つけ続けた結果、そういった行動を取らざるを得なかったのではないでしょうか。  パートナーの悪口を言いたくて結婚する人などいません。共に協力しあって家庭を築きたかった相手に、自分の尊厳を傷つけられるような加害を重ねられたが故に苦痛を吐き出しているのです。  加害行為を重ね、信頼を失ったままの状態で「傷つくから言わないでほしい」という自分のニーズを満たそうとするのはかなりのリスクがあると思った方が良いです。

加害者は被害者に対して「莫大な負債」を抱えている

 僕は西村さんにこんな話をしました。 「加害者と被害者の関係を『天秤』だと考えてみてください。被害者の方の受け皿には、今までに西村さんから与えられ続けてきた大量の加害が積み重なり、そちら側に大きく傾いている状態です。自分でも変容を実感すれば、謝罪をして対等な関係に戻りたいと考えることもあるでしょう。西村さんは僕の目から見ても明確に変容し始めていますが、天秤の傾きが大きく歪んでいる状態で加害者が少し変わっても、それが釣り合うことはありません。パートナーの心に積み重なった加害の傷は、後から加害が減ったとしても簡単に癒えるようなものではないんですよ」  西村さんは僕に質問をします。 「では私はどうすればいいのですか?自分が傷つくようなことを言われても、黙って聞いているしかないのでしょうか?」  さて、皆さんはどう思いますか?僕はこのように続けました。 「ある意味では、その通りです。天秤の傾きを釣り合わせるためには、被害者の方が表現してくれた悲しみや怒りにただ耳を傾け、それを受け容れる過程が必要です。西村さんの加害が減っているからこそ、パートナーの方が傷ついたことを表現できるようになったんです。加害が激しかったころは、パートナーの方は黙って西村さんに従っていませんでしたか?『反撃』できるようになったことはパートナーの回復であり、対等な関係への重要なプロセスなんですよ」 「言われてみればそうかもしれない……悪口を言われることはとても傷つきますが、私は妻のことを、私が感じている以上に傷つけていたんですね……」 「そしてもうひとつ重要なことなのですが、加害者も人間ですから、大切な人に自分を悪く言われて傷つくのは自然な感情です。傷ついてはいけないわけではなく、その傷つきのケアを被害者に求めないことが重要なんです」  加害していた自覚が深まった様子の西村さんは、GADHAで弱音を吐いて仲間と励まし合うことを通して自分自身もケアの仕方を身に着けていきました。そして冒頭の相談から2ヶ月ほど経過したころ、西村さんから嬉しい報告が入ります。
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自分のせいで妻が傷ついたことを受け入れるのは辛かった
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DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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