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重度のアルコール依存症から抜け出したラッパー。酒を1日4L飲んで失った「仕事と信用」

酒を1日4L飲んで失った信用

ラッパーUSUさん

重度のアルコール依存症に苦しんだUSUさん。現在の妻と交際中のとき、「嘘をついてまで酒代をせびっていた」と語った

――毎晩、4Lものお酒を飲んでいたと。それほどの酒量だと、生活サイクルも変わりそうですよね。 USU:例えば、コンビニにお酒を買いに行くじゃないですか。酒量が増えていった当初はその日飲むぶんだけを買っていくんですけど、万が一、足りなくなったときにコンビニで「また来たよ……」と思われるのが嫌だから、20本ぐらいまとめて買うようになるんですよね。どうしても切れてしまったときは、缶の底に残っているわずかなお酒をかき集めて飲んでいました。 当時は現在の妻と交際していましたが、色々と迷惑もかけました。嘘をついて、酒代をせびっていたんですよ。「携帯代が払えない」と相談して、本当は1万円ちょっとで済むのに「3万円」と要求して、残ったお金を酒代にあてたこともありました。すべてが悪循環だったなと思います。 ――日常生活に変化がある一方で、仕事に支障が出たことはなかったんですか? USU:後輩が主催していたクラブイベントへ茶々を入れるため遊びに行き、ライブ中に「お前、下手くそだな!」とお客さんも見ている前で罵声を浴びせたりとか、ステージから引きずり出されたりとか……。週末に開催していた昼間からのライブやクラブイベントでは、飲み過ぎて楽屋で潰れて、出演者やスタッフが完全撤収してからようやく起きるみたいな日もありました。先輩としての示しが付かないといいますか。地元ではすでにラッパーとしてのキャリアもだいぶ上の方でしたけど、かなり迷惑をかけていたと思います。 ――泥酔していた瞬間の記録などは残っているんでしょうか? USU:イベントの記録は残っていませんが、酩酊状態で幻覚を見ていたときの音声はボイスメモに残っています。無意識のうちに録っていたんですよ。「大きな口の女が窓から部屋を見ている」とか「目ン玉の大きな女が横を通り過ぎた」とか、明らかにもうろうとした口調で意味不明なことを自分が話しているんです。治療をはじめてから、アルコールの「離脱症状(禁断症状)」の一種だと分かったんですが、後輩に音声を聞かせたときは、だいぶ引いていました。

突然倒れて命の危機に。「治さないとヤバイ」と覚悟

――ある種“お酒に支配されている”かのような生活をしていたUSUさんが、アルコール依存から抜け出そうと考えたきっかけは何でしたか。 USU:断酒をはじめた「2020年10月15日」の半月ほど前、その年の9月末にぶっ倒れたんですよ。10日間ぐらい水も飲まずお酒だけ飲み続けていたら、自宅で動けなくなったんです。実家の敷地にある離れで独り暮らしていて、何とか這いつくばって両親の元へたどり着き、救急車を呼んでもらって。病院で「腹水」が原因だと分かりました。 内臓がかなりのダメージを負っていたので、入院中は鼻から管を通されて体内の水分を出していたんですが、そのときに思ったんですよね。「俺、本当に何やってんだろう」って。両親や現在の妻にすすめられて断酒をしようと思ったことがあっても何度も失敗していましたし、「もう絶対にダメだ。アルコール依存を認めて治さないとヤバイ」と思い、治療を決意しました。 ――そこから本格的に治療へ取り組み、現在へ至るわけですね。実際、どのような治療へ取り組んでいるのでしょうか。 USU:日々どのように気持ちが変わっているのかなど、記録を付けていますね。断酒とは言っても、お酒を完全に断つのではなくて「1日24時間、断酒してみよう」と初めに教わりました。とにかく、飲みたくても「その日だけ我慢しなさい」と。今は、その「24時間断酒」が何百日間と続いている感覚です。時折、イライラやめまいに苛まれることもあり、離脱症状を抑える薬も服用しています。また、飲酒欲求が起きるのは「Hungry(空腹)」「Angry(怒り)」「Lonley(孤独)」「Tired(疲労)」が込み上げてくる瞬間とも学んで、それぞれの頭文字を取った「HALT」を、7thアルバム(2022年1月リリース)のタイトルに込めました。 ――薬以外でも、離脱症状を抑えるために工夫していることはありますか。 USU:飲酒欲求がどうしても湧いてくるときは炭酸水を飲んだり、空腹をまぎらわせようとしています。空腹が満たされると、乗り越えられるんですよ。現在の妻も協力してくれているので、ありがたいです。以前は彼女もお酒を飲んでいましたけど、自分がアルコール依存症の治療をはじめてからは、スッパリお酒を辞めて。離脱症状に悩んでいるときは「何か好きなもの食べに行く?」と促してくれます。 ――夫婦二人三脚で治療に取り組んでいるんですね。それでも、周囲との付き合いなどで飲み会に誘われるときもあると思いますが、今はどうしているのでしょうか? USU:断酒をはじめてから約1年2ヶ月半後、2021年末に久びさの飲み会へ参加したときは辛かったですね。飲み会は2時間くらいの予定でしたけど、1時間半ほどで帰りました。コーラやソフトドリンクを飲んでみんなと会話していたんですけど、やっぱり時間が経つとテンションが合わなくなってくるんですよね。「俺がいるから飲むのはやめよう」となってほしくはなかったし、昔話をしながらみんなが楽しんでいるのに、返しが冷たくなっている自分に気が付き「危険だな」と思いました。
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断酒して「優しくなった」と言われるようになった
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