更新日:2022年08月29日 17:36
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大往生タイキシャトルの忘れられない思い出。名馬を偲ぶ伝説のレース3選

不覚? 負けてなお伝説を残した引退レースのスプリンターズS

競馬

代表産駒の一頭であるレッドスパーダは京王杯SCなど重賞を3勝

 続いて第2位には、引退レースとなったスプリンターズSを挙げたいと思います。このレースを迎えるまでのタイキシャトルは12戦11勝。むしろなぜデビュー3戦目の菩提樹Sで2着に負けたのか……が話題になるほど、当時は向かうところ敵なし、このレースでも多くのファンは誰も負けることなど想像せず、まさに引退興行のラストランくらいに考えていたものでした。  それは大げさではなく、当時の単勝オッズはなんと1.1倍。2番人気のシーキングザパールが単勝オッズ10.5倍でしたから、いかに圧倒的な人気だったのかがおわかりでしょう。  しかし、レースでは誰もが想像し得なかったジャイアント・キリングが起こります。いつも通り好スタートから好位を悠々と追走するタイキシャトルは、4コーナーで早くも先頭へ並びかけます。あとは直線、後続を突き放すだけ……ほとんどのファンはそう信じて疑わなかったはずです。  ところが、直線に入ってもいつもの爆発的な伸びが見られません。前走のマイルCSでは楽々と後続を5馬身突き放して帰国初戦を飾っていたのに、今回ばかりはいつもと違う。モタモタしているうちに馬体を併せて伸びて来たのは、1つ年下の新興勢力、マイネルラヴでした。  直線300mにわたる壮絶な叩き合いの末、最後にグイっと抜け出したのはマイネルラヴ。さらに道中は最後方待機の武豊=シーキングザパールが大外から鋭く伸びて来て2着。単勝1.1倍の圧倒的人気に応えられなかったばかりか、引退レースにして初めて連対(2着以内)を外すという驚きの結末。当時は春の安田記念から馬体重が20kgも増えていたため、太目残りが原因ではないかなどと言われたものですが、今となってはそれも憶測の域を出ません。  この年の秋のG1では、天皇賞(秋)で同じ1.1倍の圧倒的支持を集めたサイレンススズカがレース中に故障し、予後不良になってしまう悲劇が起こっています。2度にわたり「競馬に絶対はない」ということを強烈な形で教えられた秋だったのです。ちなみにレース後に行われた引退式ではキャリアを振り返るVTRが流れ、引退レースのスプリンターズSの戦績が「1着」と出てしまったのは有名な話。VTRを作成したスタッフも、まさか負けるとは思っていなかったのでしょう。それほど、驚きのラストランでした。

100回走っても負けない? 泥んこ馬場を突き抜けた安田記念

 このレース当日の東京競馬場は、梅雨時ということもあって雨。馬場は泥んこ状態で、馬場発表も4段階で最も悪い不良馬場でした。ダート重賞を制した実績もあり既に国内では圧倒的な力を見せていたタイキシャトルですから、単勝は1.3倍と断然の支持を集めていましたが、それでもあまりの非日常的な馬場に多少は不安を覚えながらレースを観ていたのを覚えています。  しかしいざゲートが開くと、すべては杞憂に終わります。空模様が違ってもスタートの良さはいつも通り。悠々と好位につけると、馬場の悪いインをスイスイと楽な手応えで追走していきます。各馬が足元の悪さに苦しむ中、直線は馬なりのまま先頭を射程圏に。最後は岡部騎手のムチが入ると、香港のオリエンタルエクスプレスを2馬身半突き放す完勝劇。まさに格が違う勝ちっぷりでした。  当時の馬場がいかに特殊だったかは、2着以下の馬の人気を見ればわかります。 2着 オリエンタルエクスプレス=8番人気 3着 ヒロデクロス=17番人気 4着 ロイヤルスズカ=12番人気  ご覧の通りタイキシャトル以外の上位馬は人気薄ばかり。それほど通常とは異なる条件下だったわけですが、タイキシャトルには何も関係ありませんでした。競馬に絶対はない……とはよく言われますし、後にタイキシャトルが引退レースで自らそれを示すことになるわけですが、この時のタイキシャトルは「100回レースをやり直しても全部勝ったのではないか?」と、そんな非現実的な想像を抱いたものです。それほど力強く、どんな条件でも負けない強さを見せた一戦でした。  いかがだったでしょうか? とにかく圧倒的な強さで現役を駆け抜けたタイキシャトル。そのレースぶりを改めて振り返ると、ディープインパクトやオルフェーヴルのような派手さや破天荒さとは異なり、むしろいつも淡々と、涼しい顔をして勝つ。それがタイキシャトルの凄みだったように思います。  28歳、老衰。メイショウボーラーやレッドスパーダといった後継種牡馬も送り出し、晩年は「シャトじいじ」と呼ばれて愛されていたとのことです。なお、本稿で挙げたレースはすべてJRAの公式Youtubeから動画を視聴可能なので、是非、その美しく力強い走りを改めてご覧いただければと思います。 文/TARO
競馬予想ブログとしては屈指の人気を誇る『TAROの競馬』を主宰する気鋭の競馬予想家。12月5日に最新刊『馬券力の正体 収支の8割は予想力以外で決まる』(オーパーツ・パブリッシング)が発売になった。著書は他に『競馬記者では絶対に書けない騎手の取扱説明書』(ガイドワークス)、『回収率を上げる競馬脳の作り方』『回収率が飛躍的に上がる3つの馬券メソッド』(扶桑社)が発売中。
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