更新日:2022年11月14日 15:41
デジタル

なぜ、人は『スプラトゥーン』にハマってしまうのか? 最新作が「3日で345万本」の衝撃

(2)対戦型シューターに革命をもたらした

『スプラトゥーン』の功績としては、対戦型シューターに新たなルールを加えたことも大きかったと言えます。対戦相手を撃って倒す一方で、自分も倒されるというのが対戦型シューターの基本。単純にこれだけだと、上級者と初心者の差が大きく出てしまいます。 「最初からシューターを作ろうとしていたわけではない」とプロデューサーの野上恒さんがゲーム開発者向けカンファレンス「GDC 2018」で語っていたように、シューターからのスタートではなかったことが功を奏したのでしょう。「色を塗る」要素を軸にしたことで、対戦型シューターは一気にカジュアル化しました。 『スプラトゥーン』のメインである「ナワバリバトル」では、「倒す/倒される」の相互的な関係以外に、ある種、単方向の「地面を塗る」という行為でチームへの貢献が可能となり、初心者がゲームに参加するハードルが下がりました。
スプラトゥーン

地面を自チームの色のインクでどれだけ塗ったかを競う「ナワバリバトル」を紹介する公式サイト

 さかのぼると、色を塗る行為は初期ゲームの基本形である『パックマン』のような「ドットイートゲーム」にたどり着きます。ファミコンでもおなじみの『シティコネクション』は、通れる道路をすべて塗りつぶせばステージクリアというルールでした。不思議なことに、人間はそこにドットがあればすべて拾いたくなり、塗れる空白があればひたすら塗りつぶしたくなるもの。そうした根源に近いゲーム性が加わっているのが『スプラトゥーン』の強さでしょう。  また、対戦型シューターに限っていえば、ビジュアルで戦況がわかるというのも非常に画期的な要素。色が混在しているエリアが、激しくぶつかり合っている前線であることは一目瞭然。目的も戦況も可視化されている意味は大きいです。  SNSでの口コミが売上を左右する時代において、「色を塗るゲーム」と端的に内容を言い表せたのもヒットの一因でしょう。

(3)秩序と混沌のリズム感

 もうひとつ、これは『スプラトゥーン』が起こした革命というわけではないですが、『スプラトゥーン』は秩序と混沌、緊張と弛緩のリズム感がプレイヤーを夢中にさせます。ナワバリバトル1試合のなかでも、「サーモンラン」(協力プレイモード)のなかでも、秩序と混沌、緊張と弛緩のリズムが繰り返されます。色が入り乱れてぐちゃぐちゃになっている部分もあれば、誰もいないところを淡々と塗れるフィールドの端もあります。インクに潜って移動し、背後を突いて奇襲するという戦い方もスリリングです。
スプラトゥーン

戦況が進むほどゲームのフィールドは色が混ざり、抽象画のような混沌に

 1試合という限られたゲーム時間のなかで、秩序と混沌、緊張と弛緩のリズムが意識的にゲームデザインされていることが、やればやるほど『スプラトゥーン』にハマっていく理由ではないでしょうか。  以上の3点以外にも、定期的に追加されるブキやステージ、お題に対してチームに分かれて勝敗を決める「フェス」など、発売後の継続的なサービスもファン離れを防いで、今回の『3』のスタートダッシュにつながった要因でしょう。これは任天堂としてはかなり早い段階で『スプラトゥーン』に用いられた運営手法でした。  すでにあるジャンルにユニークな世界観を乗せ、システムに+αをして、そのジャンルの本質を残しながら目新しいものにする。これは任天堂が得意とするところ。そのスタイルが独創的な形で実現したのが『スプラトゥーン』と言えそうです。  今後『どうぶつの森』のように社会現象級のブームとなっていくのか。『2』の売上は全世界1330万本。『3』がどこまでこれを上回るかに注目です。<文/卯月 鮎>
ゲーム雑誌・アニメ雑誌の編集を経て独立。ゲーム紹介やコラム、書評を中心にフリーで活動している。雑誌連載をまとめた著作『はじめてのファミコン~なつかしゲーム子ども実験室~』(マイクロマガジン社)はゲーム実況の先駆けという声も
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