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日本でも人気急上昇のNewJeans、「グレーゾーン」な歌詞が呼んだ波紋

無視できない「楽曲の卓越性」


 けれども、だからといって「Cookie」をすべて否定しなければならないかと言われると、そこはキッパリとNOを突きつけたい。音楽として圧倒的に素晴らしいからです。  使う音やフレーズを極限まで絞ることで、曲を特徴づける要素が明確になっている。引き算、割り算の発想なのですね。やたらめったらアイデアを詰め込まないのでサウンドに空間ができる。それゆえムダに張り上げなくても声が伝わる。全体のボリュームを落とすことで親密さが生まれるのです。  そしてゆったりと歌う部分、細かい符割で半分ラップのように攻め込む部分、ここのつなぎ目をほとんど感じさせないところが圧巻です。シームレスで流れ行くような軽さで、一生懸命作った雰囲気を感じさせません。  米紙『New York Times』による2022年のベストソングで11位に選んだジョン・カラマニカ氏も「派手ではない穏やかさが良い」(『THE F1RST TIMES』2022年12月10日) と評していました。 「Cookie」はそれぐらい素晴らしい曲なのです。“またK-POPのゴリ押しかよ”と嘆く人にこそ是非聞いてほしい。このようなエレガンスが長らく日本の音楽シーンから失われていると感じるからこそ、多くを学べると思います。

危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たか?


   そのうえで、歌詞を含めたトータルの表現については別個に考えていく必要がある。これも確かなことです。  危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たのだろうか? その点については筆者の宿題にしたいと思います。  議論を喚起するパワーとデザイン性に優れた音楽。  いずれにせよ、NewJeansは大きなインパクトを与えているのです。 文/石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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