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10年1万本のうち「満足いくのは十数本」。世界的オカリナ奏者68歳が語る、妥協しない考え方

オカリナ作りでの“こだわりの根っこ”とは?

――1万本も製作した中で、納得のいく音にたどり着かなかったとは驚きです。 宗次郎:先生のもとで修行していた兄弟子たちも、たぶん納得のいくオカリナは作れていなかったんじゃないかなと思うんです。先ほど話した通り100本焼きあがっても、もしかしてと思えるオカリナは3、4本程度。しかし仕上げの段階で「もうちょっとこの音の響きが……」となってしまうんですよね。  オカリナの音に魅せられたきっかけは、火山先生による演奏でした。初めて音を聞いた時は、非常に強い感動を得たのを覚えています。私はもともとフォークソングを作っていたアマチュアだったんですが、自作曲の中に混ぜるくらい笛も好きでして。そのことを知っていた兄の紹介で先生の元を訪れたんです。  先生の演奏は「世の中にこんな良い音のする笛があるのか」と衝撃を受けるばかりで、音が身体を突き抜けていくような爽快感があったのを覚えています。どこまでも透き通った音色に魅せられ、毎週先生のもとへ遊びに行かせていただくようになりました。  気さくな先生なのですが、寝食を忘れて練習した成果を聞いてもらったところ、「宗ちゃん、本格的にやってみないか」とお誘いをいただきました。

1万本つくっても納得いくものは十数本

宗次郎

宗次郎氏

――その時の感動が、妥協しない姿勢を作ったのでしょうか。 宗次郎:オカリナ以外でここまで突き抜けて没頭するということはなかったので、そうかもしれませんね。ただ一切妥協しないというと、ちょっとカッコつけ過ぎかも。1985年のレコードデビュー以後、オカリナ製作は一旦ストップしているからです。  作り上げた1万本の中でも「これなら皆さんに満足していただける音が奏でられるだろう」というオカリナは十数本だけ。これらを駆使して、現在はオカリナの音色をみなさんに届ける活動をしています。  予備として50本以上の品はありますが、いざとなったらすぐ製作に戻れるよう、活動拠点としている“オカリーナの森”には職人用の大きな窯を用意しています。こちらは修業時代に使っていた窯より大きいので、200本は一気に焼けるかな。ただそうなると、まず下地を200本作らなければならないのは大変ですが。
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工房の閉鎖からデビューまでの奮起
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副業フリーライターとして2年活動したあと独立。子育ての苦労と楽しさを噛みしめつつ、マンガ趣味の影響で始めた料理にも全力投球している。クルマを走らせながら一人でカラオケするのが休日の楽しみ
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