10年1万本のうち「満足いくのは十数本」。世界的オカリナ奏者68歳が語る、妥協しない考え方
定額制サービスなどで、常に新しい音楽と出会える現代。多くは保管場所も専用プレーヤーも必要ない、デジタル変換された音源を扱う人も増えてきた。緻密に再現されたデジタル音源と高品質なワイヤレスイヤホンの組み合わせは、いまや忙しい現代社会人に必須のアイテムだろう。
そんな現代で、自分が土をこねて焼いた楽器を使って演奏しているという稀有な人がいる。世界的なオカリナ演奏者である宗次郎氏(68歳)だ。
――オカリナを作り始めたきっかけは、なんだったのでしょうか。
宗次郎:きっかけはそう特別なことではなくて、師匠から習ったためですね。師匠である火山久先生に師事する中で、「世の中に良い笛はないから、自分で作るしかないぞ」と言われてオカリナ作るところから修行が始まりました。
これまでに1万本以上は焼いてきましたが、いまだに納得のできるオカリナは完成していません。
――オカリナを1万本製作したのですか?
宗次郎:そうです。修業時代を始めた1975年からレコードデビューする1985年までの10年で、合計1万本ですね。オカリナはだいたい1回の焼成で120本くらいを一気に作るのですが、そのうち1割ほどは焼いているうちに壊れてしまいます。土をこねて成型して、焼いて、乾かして、仕上げて……というところまで1か月半ほどかかるので、だいたい10年で1万本になるでしょう。
修業時代は朝の9時から17時までオカリナ製作、それから1時間の演奏レッスンを挟んで20時から深夜3~4時頃まで自主練習という日々でした。独立後も8時から16時までひたすら試行錯誤しながら土をこねては焼いてを繰り返していたんですが、納得のいくオカリナにはたどり着かなかったんです。
陶器というのは本当に繊細で、ほんの少しの差で音が大きく変わります。石膏の型で作った生土の段階で調律した音と、窯で焼成した後の音が全然違うということもしばしば。吹き口にやすりをかける回数が一回違うだけでも、明らかに変化します。なので、「あと一回やすりをかけるべきか……」というのは毎回冒険する気持ちでしたね。
1985年のデビュー翌年からNHK特集『大黄河』のサウンドトラックが大ヒット。韓国など海外での演奏も好評を博し、1993年には日本レコード大賞企画賞を受賞している。しかし同じように世界で評価を受けているミュージシャンの中でも、自作の楽器で活躍している人はそう多くないはず。目まぐるしいほどのスピードで変化する現代にはそぐわないように見えるこだわりの根っこを、直撃取材で明かしてみた。
10年で作ったオカリナの数は1万本
8時間ひたすら土をこねて焼くを繰り返す
副業フリーライターとして2年活動したあと独立。子育ての苦労と楽しさを噛みしめつつ、マンガ趣味の影響で始めた料理にも全力投球している。クルマを走らせながら一人でカラオケするのが休日の楽しみ
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