安藤サクラ主演『ブラッシュアップライフ』がヒットした5つの理由
日本テレビ『ブラッシュアップライフ』(日曜午後10時半)は間違いなく傑作だ。中盤までは軽妙なコメディだったが、終盤から感動作に姿を変えた。鮮やかな移行だった。5日放送分の第9話のコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)は5.0%で冬ドラマの中でトップ。最終回のコアが同4.9%だった秋ドラマのヒット作『silent』(フジテレビ)と肩を並べた(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
なぜ、ヒット作になったのだろう。理由を5つ挙げてみたい。(※以下、ネタバレあり)
たとえばTBS『テセウスの船』(2020年)の場合、31年前にタイムリープした田村心(竹内涼真)が、父・佐野文吾(鈴木亮平)の犯行とされた殺人事件の真相を知ろうとするところから物語は始まった。ほとんどのタイムリープ作品は物語の序盤で主人公の目的が明かされる。
ところが『ブラッシュアップライフ』は違った。主人公・近藤麻美(安藤サクラ)の真の目的が幼なじみを救うためだと明かされたのは第8話。それまでは麻美すら自分が成すべき役割に気づいていなかった。既に物語は終盤に入っていた。
第7話までは麻美が幼なじみのなっちこと門倉夏希(夏帆)、みーぽんこと米川美穂(木南晴夏)と共有する時間が繰り返し描かれた。無邪気な会話と取るに足らない行動。意味はほとんど感じられず、単に作品の持ち味だと思われた。
しかし、違った。第7話までは観る側に対し、3人はお互いが空気のようなものだと伝えていた。あると意識しないが、消えてしまうと生きていくのが辛くなる存在である。親しい幼なじみがいかに大切なものであるかを表現していた。斬新で巧妙な構成だった。
第7話までの麻美は徳を積んで来世も人間に生まれ変わることしか考えていなかった。あくまで自己本位。ところが、第8話で、なっちとみーぽんが航空機事故で死亡し、それを救おうとした5周目人生のパイロット・まりりんこと宇野真里(水川あさみ)も死んだことを知ると、考えが変化する。
同話の終了5分前、麻美は建築資材の落下事故でまた死ぬ。4周目の人生だった。死後案内所の受付係(バカリズム)から、今度は来世も人間と伝えられる。満願成就だ。研究医として世のために働いたことが認められた。
けれど麻美はちっとも喜ばず、宙を見つめ、しばし考え込んだ。
胸中に去来したのは3人と過ごした楽しかった日々。直後に麻美は人間に生まれ変われるチャンスを捨て、受付係に告げた。
「(5周目を)やり直せますか」
それが可能だと知ると、今度はうれしそうに笑った。親しい幼なじみを救うため、身を投げ打つことを決心した。
脚本を書いているバカリズムにとって、この場面までの物語は全て伏線だったのではないか。友情は創作物の永遠のテーマであるものの、ドラマで描こうとすると臭くなってしまいがち。だが、タイムリープという状況を使い、コミカルタッチにしたことで、それが防がれた。
理由1 一般的なタイムリープ作品とは正反対の斬新な構成
第7話までの壮大な伏線
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
記事一覧へ
記事一覧へ
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ