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イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府

国連憲章に反した違法な戦争

イラク西部の都市ファルージャは、米軍による大規模な無差別攻撃を受けた 筆者撮影

イラク西部の都市ファルージャは、米軍による大規模な無差別攻撃を受けた(筆者撮影)

 さらに米国のイラク攻撃は、国連安全保障理事会(国連安保理)による、武力行使容認決議を得ないまま開始された。つまり、先制攻撃を禁じた国連憲章に反する違法な戦争なのである。  これについては、小泉政権や安倍政権は「大量破壊兵器査察の受け入れ」を求める国連決議1441号や、湾岸戦争(1991年)の武力行使容認決議である678号と、その停戦条件である687号を組み合わせるという強引なこじつけで、「国連安保理決議を得ている」との暴論を言い張った。つまり“イラクへの武力行使”そのものの容認決議はまとめられなかったというのが、歴史的事実である。  興味深いのは、岸田首相は山本議員への答弁で、小泉・安倍元首相のような暴論を繰り返すのではなく「評価する立場にない」と逃げていることだ。すでに、米国を支持してイラク攻撃の有志連合に加わったイギリスとオランダ両国でのイラク戦争検証でも、ともに上述のような暴論は成り立たないとの見解がまとめられている。もはや、イラク戦争は国連憲章に反した違法な戦争であったということが明白であるからなのかもしれない。  いずれにせよ、イラク戦争が過ちであったことを岸田首相も認めるべきだ。ありもしなかった「イラクが隠し持つ大量破壊兵器」という誤った情報で米国は戦争をしかけた。英NGO「イラク・ボディー・カウント」の集計によれば、各報道で確認されたものだけでも、開戦から現在に至るまでに20万人前後の民間人が死亡したという。

イラク戦争を検証し、当時の判断を撤回することが必要

ロシア軍の攻撃で自宅が破壊されたと訴える女性 ウクライナ東部クラマトルスク近郊で筆者撮影

「ロシア軍の攻撃で自宅が破壊された」と訴える女性(ウクライナ東部・クラマトルスク近郊で筆者撮影)

 またイラク戦争は、ロシアのウクライナ侵攻にも「口実」を与えてしまっている。プーチン大統領は昨年2月24日、ウクライナ侵攻を開始する際の演説で、国際法を軽視しする米国の振る舞いの具体例として、イラク戦争に言及。ロシアを欧米の脅威から守るため、とウクライナ侵攻を正当化する材料にしているのだ。  プーチン大統領の主張もまた強引なこじつけだが、イラク戦争の反省もないままに米国や日本が「力による現状変更は許されない」とロシアを非難しても説得力に欠ける。中東を長く取材してきた筆者の経験から言っても、米国のダブルスタンダードぶりは、とりわけ中東の人々からは冷めた目で見られていることは否めない。  3月20日でイラク戦争の開戦から20年の年月が経つというのに、いまだにイラク戦争支持の誤りを認められないのでは、山本議員が問いただしたように「米国が間違った方向に行った場合、日本は行動を別にできる」かどうかは、大いに疑問だと言わざるを得ない。  ウクライナで続いている戦争を止め、今後、日本やその周辺で起きうる戦争を未然に防ぐためにも、国連憲章に基づく国際秩序が必要だ。そのためには、イラク戦争を検証してその誤りを認め、戦争を支持した当時の判断を撤回することが必要だろう。 文・写真/志葉玲
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*本記事を寄稿した志葉玲さんや人道支援関係者による、イラク戦争20年の映画上映・シンポジウムが3月18日に都内で開催される。
【イラク戦争20年を振り返る上映会とシンポジウム】
日時:3月18日(土)14:00~20:00(開場13:30)
会場:専修大学 神田キャンパス 10号館10091教室 (地下鉄神保町駅A2出口3分 地下鉄九段下駅5出口1分 JR水道橋駅西口7分)
資料代:1000円(全日)
映画上映:『リトルバーズ -イラク戦火の家族たち』『ファルージャ イラク戦争日本人人質事件…そして』
シンポジウム:相澤恭行(Chal Chal)、小野万里子(セイブ・イラクチルドレン・名古屋代表)、佐藤真紀(国際協力アドバイザー)、志葉玲(ジャーナリスト/イラク戦争の検証を求めるネットワーク事務局長)、髙遠菜穂子(イラクエイドワーカー)、布施祐仁(ジャーナリスト)、綿井健陽(映画監督)
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