「評価をする立場にはない」と岸田首相
岸田首相に質問する山本太郎参議院議員(国会中継より)
2023年3月20日で、イラク戦争開戦から20年となる。2003年、国連安保理常任理事国である米国は世界中の反対の声を無視し、国連憲章に反してイラクへの違法な先制攻撃を行った。そのことは、ロシアのウクライナ侵攻など、その後の世界情勢にも多大な悪影響を及ぼしている。そんな中、山本太郎参議院議員が3月2日の参議院予算委員会で、岸田文雄首相にイラク戦争の是非を問いただした。
山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、
「アメリカが間違った方向に行った場合は、(日本は)行動を別にすることできますよね?」と岸田首相に質問した。
岸田首相が
「当然のことながら、日本は日本の国益を考え、憲法や、国内法、国際法、こうした法の支配にもとづいて外交安全保障を考えていく、これが当然の方策であると考えます」と答弁したのに対し、山本議員は
「イラク戦争はどうだったと思われます? イラク戦争は間違いでしたか? 正しい戦争でしたか? 教えてください、総理」とたたみかけた。
とたんに岸田首相は歯切れが悪くなり、こう答弁した。
「あのー、我が国としてイラク戦争の、えー、評価をする立場にはないと考えています。わが国として、自らの国益を守る。もちろん大事でありますが、それとあわせて 先ほど申し上げました、法の支配、国際法や国内法、こうしたものをしっかりと守る中で、国民の命や暮らしを守っていく。これが日本政府の基本的な考え方であります」
山本議員は岸田首相の答弁の欺瞞ぶりに憤った。
「なに言ってんですか。イギリスはじめ『イラク戦争は間違いだった』ってことを反省していますよ。日本だけですよ。なに言ってんですか! ぜんぜん反省できてないじゃないですか」
米軍に爆撃されたイラクの首都・バクダッドの市街地(筆者撮影)
イラク戦争の開戦前後から幾度も現地を取材した筆者としては、20年経っても日本政府がイラク戦争の検証をまともにできていない中で、それを国会で追及した山本議員を大いに評価したい。一方、岸田首相の答弁は不誠実極まりないものだ。
岸田首相は、上記のように
「我が国としてイラク戦争を評価する立場にはない」と答弁しているが、イラク戦争開戦当時の日本政府は、米国による武力行使を明確に支持していた。
「イラクは12年間にわたり、17本に及ぶ国連安保理決議に違反し続けてきました。イラクは、国際社会が与えた平和的解決の機会を一切活かそうとせず、最後の最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしませんでした。このような認識の下で、我が国は、我が国自身の国益を踏まえ、かつ国際社会の責任ある一員として、我が国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持します」
(イラク問題に関する対応についての小泉内閣総理大臣談話)
だが当時、米国が主張していたイラク戦争の動機としての「イラクの大量破壊兵器」については、国連による現地での査察が行われていたにもかかわらず、その完了を待たずして米国は攻撃を開始したのである。
しかも「イラクの隠し持つ大量破壊兵器」は、その情報自体が誤りであったことを、後に米国自体が認めた。米議会上院の情報特別委員会は2004年7月9日、情報の収集や分析作業に数多くの誤りがあったと指摘し、「イラク戦争は欠陥情報に基づいて始められた」と断定している。
*本記事を寄稿した志葉玲さんや人道支援関係者による、イラク戦争20年の映画上映・シンポジウムが3月18日に都内で開催される。
【イラク戦争20年を振り返る上映会とシンポジウム】
日時:3月18日(土)14:00~20:00(開場13:30)
会場:専修大学 神田キャンパス 10号館10091教室
(地下鉄神保町駅A2出口3分 地下鉄九段下駅5出口1分 JR水道橋駅西口7分)
資料代:1000円(全日)
映画上映:
『リトルバーズ -イラク戦火の家族たち』『ファルージャ イラク戦争日本人人質事件…そして』
シンポジウム:相澤恭行(Chal Chal)、小野万里子(セイブ・イラクチルドレン・名古屋代表)、佐藤真紀(国際協力アドバイザー)、志葉玲(ジャーナリスト/イラク戦争の検証を求めるネットワーク事務局長)、髙遠菜穂子(イラクエイドワーカー)、布施祐仁(ジャーナリスト)、綿井健陽(映画監督)