ユキヒョウの調査・保全活動を行う双子姉妹、標高4000mの地で“幻の動物”に遭遇
動物学者&コピーライターの双子姉妹、「幻の動物」ユキヒョウの撮影に成功
姉妹が初のフィールドワークを行ったモンゴルから帰国して1年ほど経った頃、姉のこづえさんは京都大学野生動物研究センターでの研究員の任期を終え、京都大学霊長類研究所に就職。「繁殖生理学」を教える教員になっていた。
「当時は、動物園のオランウータンを対象とした繁殖研究に従事していました。霊長類を研究しながら『ヒト』を知る研究生活は、私の研究人生に新たな視点を与えてくれました」(こづえさん)
そんな日々を送りながらも、ユキヒョウに対するこづえさんの想いはまったく薄れることはなかった。
「クルマの中にユキヒョウのぬいぐるみをいつも置いていて、『いつかまたユキヒョウを研究したい』と心の隅で想い焦がれていました」(同)
転機をもたらしてくれたのは、野生動物写真家の秋山知伸さんだった。秋山さんは大学院で動物の生態学を学んだ経験もある写真家で、ユキヒョウの生息地であるインド北部・ラダック地方にたびたび訪れていた。その秋山さんが、現地の保全団体と協力してユキヒョウの保全活動とエコツーリズムを実現しようと考えていて、ユキヒョウ姉妹の存在を知り連絡をしてきたのだ。
ラダック地方はユキヒョウの貴重な生息地だが、ユキヒョウの棲むエリアと人間の生活エリアが重なり、ユキヒョウに家畜が襲われる被害が頻発。家畜を守るために、ユキヒョウを殺してしまうケースも数多くあったという。そこで、ユキヒョウと人間との共存・共生のために家畜小屋に柵を設置して、そのプロジェクト自体をエコツーリズム化しようとの計画だった。
「現地団体は、実績はあるものの十分な資金がありませんでした。そこで『クラウドファンディングで資金を集められないか』と言われたのですが、2回目のクラファンが成功するかどうか不安に思っていました。でも、支援金で柵をつくって家畜を守り、守られた羊の毛でユキヒョウのフィギュアをつくる。それを返礼品としてパトロンの皆さんにお渡しする。家畜も人も、ユキヒョウも守られる。単なる寄付ではなく、体験としてユキヒョウの保全活動に参加する面白さを届けられるかもしれない! と思って2015年10月にクラファンをスタートさせ、目標金額を集めることに成功しました」(さとみさん)
2016年4月10日、姉妹はインド・ラダック地方に向けて旅立った。ラダック地方はパキスタン、中国、ネパールと国境を接し、チベット系民族の多い場所だ。標高は約3000~7000mの山岳地帯で酸素濃度が非常に低く、成田空港からインドの首都・デリーを経由してラダックに着いた姉妹を激しい高山病が襲った。
「高山病の薬は飲んでいたのですが、頭痛がひどくて横になろうとすると、現地団体の代表の方に『寝たら呼吸が浅くなって危ない。紅茶でも飲んでしゃべっていなさい』と言われました。ラダックでのフィールドワークは高山病との戦いで、『寝たらあかん!』と声をかけ合い、強めの頭痛薬を飲んで痛みを抑えながらユキヒョウの生息地へと向かって行きました」(さとみさん)
ラダックの中心都市であるレーから車で3時間、「ユキヒョウに番犬と仔牛が襲われた」との報告があった「ガイク」という標高約4000mの場所で、姉妹は野生のユキヒョウを直接見ることになる。
「『今、目の前で、自由にユキヒョウが歩いている……。しかも、美しくしなやかな動きで、大きな岩場を縦横無尽に動いている……!』ただただ、初めて見る野生のユキヒョウに心奪われていました。警戒心が強く、人が足を踏み入れることのできない山奥に棲む“幻の動物”ユキヒョウは、本来は人の前に姿を現すことはめったにありません。研究者としても一生に一度会えるかどうかだと思っていたので、まさか民家の裏山で会うとは思ってもいませんでした。でも、その姿は、ものすごく美しくて。念願の野生のユキヒョウに会えたよろこびに私は包まれていました」(こづえさん)
幻の動物「ユキヒョウ」を追って、標高4000mを超える高山に挑む「ユキヒョウ姉妹」と呼ばれる双子の姉妹(木下こづえさん・木下さとみさん)がいる。姉妹はユキヒョウの調査研究をしながら、絶滅が危惧されているユキヒョウの保全活動を続けている。
【第2回】⇒ユキヒョウと人間が共存・共生するためのクラウドファンディング
民家の裏山で遭遇した、念願の“野生ユキヒョウ”
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体力も能力も感性もほぼ同じ双子が、それぞれに違った職業と視点で“幻の動物”ユキヒョウの足跡を追う双子姉妹の冒険記
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