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ラブホ初心者がおかしがちな「ホテル選びの間違い」/文筆家・古谷経衡

ラブホデビューでバリアンの利用はオススメしない

 ラブホデビューにおける失敗で最もありがちなのは、「最初に高いホテルに行く」である。特に大学生になって初めて彼女ができた(或いは彼氏が)という段にあっては人の気分は高揚し、デートプランの失敗があってはならない、と保守的に構える。その結果、「今夜は最高の宿泊施設を」と意気込んで、如何にも当世女子が好きそうな、如何にもそんな感じの、例えばバリアンに入ったとしたら目も当てられない。  バリアンは「女子会利用」「独り利用」「都市型リゾートラブホ」の前衛を行く大変画期的なホテルだが、決して安い物件ではないどころか、むしろバリアンはラブホ界にあっては相当高級なレベルで、一般ホテルに例えるとインターコンチネンタルと同等と言っても差し支えない。  バイト暮らしの大学生がインターコンチを利用するのは「分不相応」となるが、バリアンを利用する場合は必ずしもそう思われない。何故か。「ラブホなんてどこも似たようなもんだ」と思われているからだ。しかしバリアンはその「ラブホなんてどこも似たようなもの」という既成概念をひっくり返したから前衛的なのだが、素人はこの辺のことが良く分かっていない。  よって人生の一番最初にバリアンを利用すると、「確かに大変快適だが、ラブホというのは1泊1万円を軽く超えるものなんだな」という間違った固定概念ができてしまう。もはや「ラブホはどこも同じようなもの」という意識は通用しない。一泊一万三千円を超える物件がある一方で、そこから五分歩けば七千円で泊まれる物件が同じラブホ街に共存しているのである。  この辺はそれこそ経験を積んでいくしかないが、例えばこのようなラブホ素人と一緒に同行した異性の方は、「彼氏が初めて連れて行ってくれたラブホがバリアン」だと思ってしまえば、それが基準となってしまい、二度目以降、八千円のラブホに連れていかれたとき「こいつは安く済ませようとしている」という偏見に囚われることになりかねないのが非常に厄介である。  彼氏が毎度バリアンに連れて行ってくれるとしたら、彼がブルジョワの子息でない限りそれはかなり高価な出費であり、結構無理をしているのである。マリオットやペニンシュラに毎回泊まるのであれば「お金は大丈夫か」と思うだろうが、バリアンはそう思われないことが多い。繰り返すようにラブホの利用料金に大きな差異は無いと思い込んでいるからだ。

初めてのラブホ選び、相場の基準は?

 だからこそ、初めてのラブホ選定はことさら重要である。バリアンや、バリアンに類似する南国レジャー風物件は、確かに素晴らしいが基本的には中級者向けである。まず初めてのラブホは、ごく普通の、駅から少し歩くような、ラブホ街の中でも奥まった物件を選定するべきである。言わずもがなラブホ街における値段設定は、駅から遠くなればなるほど下降する。  平日であれば一泊七千円台まで。土日祝前日ならばさらにシビアに一泊九千円台まで、を基準にすべきである。特に土曜の夜などラブホ街でアベックが「満室」のラブホに入ることができず、夜な夜な物件を渡り歩くという光景を目にする。私ほどの玄人になれば、「街の匂い」で空いていそうな物件を嗅覚で探知することができ、仮に満室表示でも「リネン中だからあと十分程度待てば入れる」という判断を即座に下すことができるが、素人には難しかろう。だがそれでいい。人は失敗を繰り返して成長していくのだ。  初めてのラブホはまず至極ありふれた格安物件から。華美な外観で遠目からも目立つような物件ではなく、一見ビジネスホテル然としていて、中に入ると少しだけほっこりする。大抵こういったラブホは1980年代に建設された少し古い物件だが、それで充分である。初めてのラブホではそんな物件に出会うのが最も望ましいし、そういった物件はラブホ街に溢れている。  スキー場に行って、板の付け方も分からない素人が傾斜角二十五度のコースに行くことは無いのと同じで、ラブホもまずは格安帯の物件から場数を踏んで慣れていこう。さすればそのラブホの長所、短所が自然と身についていく。物件ごとの差異にも敏感になり、そのラブホのオーナーのこだわりにも気づけるようになる。  新年度で浮かれているからと言って、安易な気持ちで「当世流行の」ラブホでラブホデビューを行うと、大変なことになる。人生で一番最初に入るラブホは、後のラブホ観やラブホ全体に対する世界観を決定する。よって本稿を指南としていただければ望外の喜びである。 <文/古谷経衡>
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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