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ラブホがコロナ禍を経て「最強の宿泊施設になった」3つの理由/文筆家・古谷経衡

第28回 コロナ禍3年目のラブホテル状況

ラブホ ラブホテル業界はコロナ禍3年目を迎えた。2020年のコロナ禍初年度にあっては、緊急事態宣言発出による激烈な繁華街等への人出の減衰により、ラブホテル業界は他業種と同じく大きな打撃を被った。  またコロナ禍での営業利益減退に対する対策として、当初大々的に発表された国の持続化給付金事業については、風俗営業法が定める4号営業ホテル(風俗営業法にかかる4号営業ホテル=ラブホテル)が申請不可(給付せず)という差別的待遇が撤廃されないばかりか、それ以後も例えば2022年1月から申請開始がなされた国の事業支援復活金制度にあっても、相変わらず風俗営業法が定める4号営業ホテルの申請が不可であり、コロナ禍で大きな影響を受けているラブホテル業界が、国家権力から不当な差別的待遇を受け、公的救済の対象外となっている現状については依然として憂慮すべき事態が継続している以上、我々ラブホテルを愛する1億人民は差別撤廃にむけた怒りの声を、満腔の思いで国家権力に対し示し続けなければならない。  とはいえ、このような差別待遇に関して理解を示す国会議員も少数ながらもおり、特にラブホテルを包括する我が国最大の業界団体である(一社)日本レジャーホテル協会によると、平沢勝栄(自民)、小倉將信(同)などが同協会に理解を示し活発な意見交換を行っており、風営法4号で営業するラブホテルへの差別的待遇に対し、その不当境遇に理解を示す良心ある議員の動きも鈍足とは言え広がっている兆候も付け加えておく。

「巣ごもり飲酒需要」が盛んに

 このような中、コロナ禍3年目を迎えて、元来コロナ禍以前から経営体力がぜい弱であった店舗は、概ね「悪い意味」で淘汰された。つまり2020年の初手の一撃により営業終焉のやむなきに至るも、元来ラブホテルが密室・隔離性・匿名性を重視した物件構造になっていることが幸いしてか、2021年をボトムとして概ねラブホテルを取り巻く状況は厳しいながらも漸次復調の傾向を見せていることもまた事実である。  これには、以下の理由が推察される。まず第一に、3年に及ぶコロナ禍において、人々が緊急事態宣言、蔓延防止等重点措置などの人流抑制対策に慣れ切った結果、全体として大きく外出自粛について積極的なインセンティブを見出すことなく、人々の行動様態が徐々に平時に戻ったこと。またこれに付帯して、酒類を提供する飲食店(バー・レストラン・居酒屋等)は軒並み夜8時前後の自粛を行ったが、小売店(コンビニ・スーパーなど)での酒類販売は自粛の対象外であり、よって小売店で買い込んだ酒類をアベック等がラブホテルに持ち込んで室内飲酒する、所謂「ラブホテル巣ごもり飲酒」需要が旺盛になったこと。  第二は、ラブホテル側の経営努力である。すでに述べた通り、元来ラブホテルは密室・隔離性・匿名性を売りにした物件であり、一般のビジネスホテル、シティホテルなどと違い客が共用する食堂等がそもそも無かったり、ロビー部分が狭小であることが多く、感染対策にあって強力な追加の設備投資を行う必要があまり無い。以てさらなる換気や消毒の徹底を行っている旨の周知を行うことで、「ラブホテルはコロナ禍にあって最も安全な宿泊施設」という認識が広がったこと。もとよりラブホテルは周到なリネン(室内清掃等)を徹底しているが、各物件の営業努力によってさらにこの精度を向上させたために、ラブホテル=安全の認識がさらに拡散したことである。
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ラブホ業界のコペルニクス的転換とは
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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