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ラブホ不毛地帯・京成立石の下町情緒が再開発で失われつつある/文筆家・古谷経衡

 

立石にラブホがない理由

Villa City aoto

立石から最も近いラブホのひとつ『Villa City aoto』(筆者撮影)

 さて深夜立石に放り出された私は、すわ立石のラブホに寄ってサービスタイムとしけこもうと思ったが、立石にはラブホがない事を思い出したのである。これは中央線沿線の阿佐ヶ谷や荻窪、中野等々にラブホが極めて少ないのと同じで、戦災被害が比較的少なかった地域では戦前からの零細な土地権利関係が継続されるため、巨大資本による土地買収や建設が難しかったこと。加えて戦後の開発の時代になっても既存地主がラブホの建設に反対するところが多く、用地取得が困難であったことが関係しているからである。  よって「呑んべ横丁」で朝方近くまで飲んだ後に泊るラブホは、隣駅の青砥周辺が最も近く、中でも駅から至近の『Villa City aoto(ヴィラシティ青戸)』をこの日は第一選択とした。  ロビーに入った瞬間、天井に掲げられたクリムトの『接吻』が出迎える。この瞬間、当たりだなと思った。私はアートには全然詳しくないが、ごく稀にラブホのロビーにラッセンの絵が飾られたりすると、何故か不安になる。クリムトがラッセンより上だ、などと言っているわけではない。単なる趣味の問題である。
クリムト『接吻』

クリムトの『接吻』が迎えるホテルロビー(筆者撮影)

 室内は可もなく不可もなく標準的なものと言えるが、当然リノベーションが施されていて廉価な室料の割には上質のこだわりが見え隠れする。「呑んべ横丁」で飲んだ後、酔いを醒ますまでにはここのサービスタイムが一番良いだろう。とはいえ、そんな素晴らしい横丁が今夏でなくなってしまうので、この行動が出来るのもあと数か月である。  再開発完了後の京成立石の予想図は、各所が発表するCG等で閲覧することができるが、私の中では未だ焦点を結んでいない。 <文/古谷経衡>
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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