さて深夜立石に放り出された私は、すわ立石のラブホに寄ってサービスタイムとしけこもうと思ったが、立石にはラブホがない事を思い出したのである。これは中央線沿線の阿佐ヶ谷や荻窪、中野等々にラブホが極めて少ないのと同じで、戦災被害が比較的少なかった地域では戦前からの零細な土地権利関係が継続されるため、巨大資本による土地買収や建設が難しかったこと。加えて戦後の開発の時代になっても既存地主がラブホの建設に反対するところが多く、用地取得が困難であったことが関係しているからである。
よって「呑んべ横丁」で朝方近くまで飲んだ後に泊るラブホは、隣駅の青砥周辺が最も近く、中でも駅から至近の『Villa City aoto(ヴィラシティ青戸)』をこの日は第一選択とした。
ロビーに入った瞬間、天井に掲げられたクリムトの『接吻』が出迎える。この瞬間、当たりだなと思った。私はアートには全然詳しくないが、ごく稀にラブホのロビーにラッセンの絵が飾られたりすると、何故か不安になる。クリムトがラッセンより上だ、などと言っているわけではない。単なる趣味の問題である。