Hさんは、上記のようなコミュニケーションを度々繰り返す中で、パートナーとのコミュニケーションがうまくいかなくなり、悩み、カウンセリングに通い出し、アドバイスなしで徹底的に聞いてもらう体験をされたそうです。 　生まれて初めて自分の感情を、とりとめのない話を、否定されずに聞いてもらううち、「夫も、ただただ聞いてもらいたかっただけなのかも」と気づき、SNSでGADHAを見かけて数ヶ月間は他人事のように記事を読んでいるうちに、だんだん「自分の行為もモラハラなのではと、やっと気づいたんです」と、Hさんは溜息とともに呟きました。 　若いときに、自分が専業主婦ができるようなパートナーを探す方法もあったのに、今の男性との結婚を選び決めたのですが、「他ならぬ自分自身の選択だったという意識が全くなかった」と言います。 　そして、Hさんは、自分が働いているのを旦那さんのせいにしつづけながら【全く自覚がない】、まさに悪意のない加害者だったと認めました。「関係が壊れてからようやく気づいたんです」と、小さい声で付け加えました。 　Hさんの心の中には常にパートナーを責める気持ちがありました。単に相手の愚痴を聞かないということでもなく、正論を押し付けているだけですらなく、実際には「この人は給料が低い。給与が低い男性は何を言われても仕方ないはずだ」と夫を傷つける発言を繰り返していたのでした。 　さらにその背景には、自分で選んだはずの人生に不満を抱え、鬱屈した思いを、一見そうとは見えない形で相手にぶつけ、責任転嫁してストレスを解消したいというニーズさえあったのです。 　誰かが愚痴をいうときは内容を解決したくて言っているわけではないことがほとんどです。心の辛さや、人生のままならなさを分かち合いたくて言っているはずです。 「そっか、会社がまたお客さんからクレームもらったんだ、心配だね」「あなたはミスがないよう気をつけたのに、他の部署がミスしたなんてガッカリだね」「人事のごたごたは現状に沿ってないと不安になるよね」などのように相手の心に沿わせて言葉をかけることができたら、きっと今とは違う関係になっていたでしょう。 　そしてそれ以上に、Hさんはご自身の愚痴や、人生の不満を、押し殺して誤魔化すのではなく、勇気を持って誰かに共有してみることがよかったのかもしれません。第三者に愚痴をこぼしてみたら、こんなふうに返ってきたかもしれません。 「そうなんだ、そういうふうに思っちゃうこと自体が辛いってこともあるよね。自分が選んだと言ったって、将来のことなんてわからないし……かといって相手に伝えてもね、なんか責めるだけになっちゃって、それがしたいってわけでもないような気もするし…うーーん」 　そうしたら「そうなのそうなの、本当にそうなんだよね。そんなふうに受け止めてくれて、ありがとう」と深く頷き感謝すると共に、自分の中に胸のつかえが取れて、少しは楽になるかもしれません。 　不満を持ったり、相手を責めたくなったり、でも責めたいと思っていることを認めたくないと思ったり、そう言ったことはどれも自然なことです。それが自然なことだと誰かにわかってもらえると、鬱屈してねじれた形で正論をぶつけて攻撃することをやめられたかもしれません。 「また愚痴か」 「この人無能」などと思っていた自分の心に向き合い、「時間をかけてゆっくり聞き」「つらい気持ちをそのまま受け止めればよいのか」と、この女性はGADHAでの活動を通じてゆっくり変容を始めました。 「夫とどうなるかはわかりません。離婚されても仕方ないほど傷つけたので。でもこれから繰り返さないよう学ぶことはできるんですね。今、私は心が軽くなっているんです」とHさんは穏やかに語りました。