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「アジアの玄関口」なのに国際線からバスしかない…福岡市地下鉄七隈線の延伸は“街を変える”引き金となるか

実は七隈線は未完だった?

七隈線

就任直後に決断したという七隈線延伸、博多駅前陥没事故、福博連理への想いを語る高島宗一郎福岡市長(写真:淡川雄太)

 福岡市地下鉄七隈線の計画は、1971年3月の都市交通審議会答申において「都心部から西南部方面に至る路線」と明文化され、後の九州地方交通審議会答申や北部九州圏パーソントリップ調査においても「福岡市西南部への高速鉄道路線・鉄軌道系輸送機関」整備の必要性が継続的に示されていた。  一方、七隈線は他2路線(空港線・箱崎線)と比べ、運営主体・整備方式や費用対効果に関する議論が1980年代末まで続いたことで、事業化に必要な補助採択が1994年12月に、鉄道事業免許を申請が1995年3月に、橋本~天神南駅間の開業が2005年2月になるなど、整備が遅れることとなった。
七隈線

七隈線は福岡市近郊を結ぶ環状線としての整備やモノレール方式での整備も検討されていた。写真は同じく福岡県内の北九州モノレール(写真:淡川雄太)

 七隈線は福岡市西南部の慢性的な交通渋滞や公共施設・教育機関の立地、住宅地としての発展を背景として計画立案された経緯もあり、七隈線開業にあわせて2006年2月には沿線学生を意識した全線乗り放題定期券「ちかパス」を打ち出すなど、需要の新規開拓を図った。

失敗と揶揄する意見も付きまとった

 一方、福岡市中心部と西南部のアクセス向上を担う同路線は開業当初、目標乗車数を大きく下回り、収支計画の下方修正を余儀なくされるなど厳しい状況にあった。  七隈線には開業同年12月に“まちびらき”となった人工島「アイランドシティ」とともに失敗と揶揄する意見も付きまとったが、2011年4月に福岡地所による「木の葉モール橋本」が起終点駅の橋本駅付近に、2017年10月にはJR九州による「六本松421」が六本松駅付近の九州大学跡地に開業するなど、集客の目玉となる複合商業施設の開発が相次いだことで生活利便性が向上した。
七隈線

福岡市交通局は「木の葉モール橋本」と開業当初から「パーク&ライド」など連携している。「六本木ヒルズ」など手掛けたジャーディによる開放感ある設計が特徴だ(写真:淡川雄太)

 あわせて、不動産大手各社による大規模分譲マンションもみられるようになり、福岡都市圏でも比較的手頃感のあった七隈線沿線でも人口が増加。懸案だった沿線開発の遅れが急速に改善したことで、七隈線の輸送人員もコロナ禍を迎える2020年度まで一貫して増加し続けた
七隈線

七隈線沿線では不動産大手による大規模分譲マンションの開発も進行中。写真は福岡を代表する高級住宅街のひとつ「浄水」で積水ハウス・三菱地所レジデンスなど4社が開発中のグランドメゾン浄水ガーデンシティ。日本郵政・九州電力施設跡地を10年規模で再開発する大型プロジェクトだ(写真:淡川雄太)

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「離れ小島」七隈線が真の姿に
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都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitter:@toshouken

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