文筆業で食えないなら、バイトすればいい
――1月に完全引退して、文筆業をメインに活動を?
戸田 見え方によっては、AV以外の仕事で生きていけるようになったからやめるんでしょ?と思う人もいるでしょうね。本の印税とか、一般の人の想像と実際の額とはかなりギャップが有ると思います。それだけで生きていけるわけがないんで、普通にAVやめたら生活費もまずいんだけど、でも、そんなのはどうにでもなる。最悪バイトすればいいし。生きる手段はAV以外にもいくらでもあるって、ようやく冷静にわかったというのも大きいです。
――5月27発売のエッセイでは、過去も振り返っています。これまでの作品では、性的な部分は排除していた印象があります。
戸田 排除していましたね。私が作る作品は、映画でも小説でもエッセイでも、「抑圧からの解放」みたいな面が重要な要素としてありました。今現在抑圧されてる人とか、生きづらい状態の人の輝きみたいなのを一貫して描いていきたいなっていうのがあります。そのテーマがこれから変わっていって、いつか真剣にセックスについて書くこともがあるかもしれないけど、今のところはそこに至る前のことを描くので精一杯。
――でも、立場的にそこを期待されてしまう。
戸田 そう、そこの相性さえよければ全然現役のまま表現活動をやるって道もあったかもしれませんが、やっぱりどうしてもAVという媒体が持つ主張と自分が作る作品に乗せたいものがあまりに遠かった。AVという媒体が慰めたいもの、肯定してきたものと、自分自身の作品との矛盾を考えると描けることが少なくなるのも影響が大きくて。自分の中の表現すべきことに「性」が割り込んでくること自体が、私の場合はあんまりない。そういう意味でちゃんと住み分けないといけなかったのが、引退する理由の一つでもあります。両立は難しいと思いました。
――なるほど。
戸田 そういう、創作活動との相性の難しさもありましたし、何より私自身が自分をきちんと認めてあげられるようになって、AVに出ること(=自分の価値観を捨てて、誰かに尽くすこと)をもうやめて大丈夫だな、自分はこれから自分のために生きていいんだなって心から思えたことの方が、自分にとってはずっと大事だし、大きいことでした。だから、やめる。やめても良いと思える段階に精神的に達したから、やめる。さっきも言いましたが、私の経験は他人には絶対にお勧めはません。お勧めはしないけど、私はデビュー前の時点で、すでにねじくれ上がっていた人生の少し乱暴な解決策というか、一回スクラップして新しく人生をビルドするにはすごくいい選択だったなって思ってます。そしていい形でまたビルドできたんで、ここからまた人生頑張りますって感じですね。
――最後に、新刊の見どころを。
戸田 現役時代に2冊エッセイを出した上、さらに自分のことを語る私小説を出版しておいて言うのも変に聞こえるかもしれませんが、これからは「わたしの話」ではなく新しく物語をどんどん編んでいきたいです。そういう、人生の第二章を始めるために、ままならない思春期を過ごし、AVに出演し、さまざまな感情を得て、引退を決めるに至る経験を一度けじめとして一冊の本にしました。「私小説」というジャンルで、戸田真琴以前と戸田真琴になってから、世界がそれぞれどう見えていたのかを自分の視点で書きました。『そっちにいかないで』というタイトルも、このインタビューを読んだときと本を読んでからとで、いろいろな捉え方が出来ると思います。AV女優という自分と遠く見える職業の人とも、あなたとの共通点がどこかには必ずあると思います。ぜひお読みいただきたいです。
(取材/安田理央 撮影/飯田エリカ)
※本原稿は昨年発表されたZINE「戸田真琴2万字インタビュー」を加筆、再構成したものです。