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「誰も傷つけない笑いは綺麗事」アフリカ人父の映画を撮った“ハーフ芸人”武内剛が語る、今のお笑い

“一気に弾けた”20代のニューヨーク留学

ぶらっくさむらい――推測ですけど、見た目のことで悩まされるだけじゃなくて、もともとそうやって縛られるのが苦手な性格だったというのもあるんじゃないでしょうか。 ぶらさむ:そう、めちゃくちゃ苦手です。僕の母親もそういうタイプで、人と同じことが大嫌いみたいな感じで。だから若い頃に1人でヨーロッパ旅行をしたりしていたんです。その血を引いているので、先天的なものもあるかもしれないですね。 ――それから23歳のときにニューヨークに行くんですよね。 ぶらさむ:あれは大きかったですね。20代の多感な時期に7年間もガッツリ住んでたので、あそこで一気に弾けました。いろいろな人種の人がいたので「みんな同じじゃなきゃいけない」みたいな固定観念が崩壊して、すごく良かったです。でも、帰国してから芸人になって日本の芸能界の中に入ったら、また丸くなっちゃったんですけど。

誰も傷つけない笑いっていうのは綺麗事

ぶらっくさむらい――芸人って割と好きなように活動できるイメージがありますが、そうでもなかったんでしょうか? ぶらさむ:何十年か前はそうだったのかもしれないですけど、今はちょっと型にはまってしまう感じはありますね。僕は2020年に事務所を辞めてフリーになったんですけど、やっぱり今のほうがしがらみもなくてやりやすいです。 ――最近ではお笑いの世界でも「容姿をいじるようなネタは良くない」とか「人を傷つけない笑いをやるべきだ」などと言われることがありますが、そういう風潮についてはどう思われますか? ぶらさむ:そういう空気の変化はめちゃめちゃ感じますね。たとえば、僕が7~8年前にやっていたネタで、警察に職質を受けて免許を見せたら「これって本物?」って言われた、みたいなのがあるんです。これも今やったらあんまり笑いにならないというか、お客さんが「それって大丈夫? 差別なんじゃない?」って思ってしまうかもしれないですね。  でも、僕は正直、誰も傷つけない笑いっていうのは綺麗事じゃないかなと思っちゃいますね。結局、どんな表現をしても傷つく人はいるだろうし。もちろんそういった配慮をする姿勢は大事だと思うんですけど、誰も傷つけないことを理想とするのはナンセンスじゃないですかね。
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お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『教養としての平成お笑い史』など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで

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