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芥川賞で注目「障害者の性」。東大卒代表が語る、“性欲を満たす射精介助”現場のリアル

女性向けサービスの開発を試みるも声上がらず

 性欲は人間の三大欲求のひとつであり、性別に関係ない。女性からの要望はないのだろうか。 「以前、女性向けの性機能ケアサービスを開発するために、女性のケアモニターを募集したことがあります。しかし、女性の障害のある方からほとんどニーズがなかったのです。女性は、自身がどんな欲求を持っているか、どんなことをして欲しいかを言語化しづらい部分があるのではないでしょうか。女性向けのサービスを作るには、当事者からの声を吸い上げる必要があります。現状、社会的に女性の障害者が当事者として声をあげるのが難しいのかもしれません」  坂爪氏は著書『セックスと障害者』(イースト新書)の中で、「性に関する介助というと、若い世代に、性的欲求の強い人が頻繁に利用する、というイメージがありますが、現実はむしろ就労やスポーツ、学業や障害者運動、レジャーや旅行などの社会参加を活発にしている人のほうが頻繁に利用する傾向がある」と述べている。  性的な欲求が満たすことは、社会参加につながるのか。

障害者の性はタブーではないが…

ホワイトハンズ

オンラインでインタビューに答える坂爪氏

「性の問題はコミュニケーションと関わりが深い。自分の性と向き合い、性的に自立した人は他人の性も尊重でき、対人コミュニケーションもうまくいきやすいと思います。そうするとコミュニティにも参加しやすくなり、出会いの機会も増え、自分を性的に肯定してくれる相手が見つかる……という好循環が生まれるのではないでしょうか。それは障害の有無にかかわらず言えることだと思います」  ホワイトハンズが射精介助サービスを始めてから約15年が経つ。開始当初はサービスの実態を知らない人から誹謗中傷を受けることもあった。その頃から比べて変化した部分もあれば、そうでない部分もあるという。 「歴史的に見ると、障害のある人の性は数十年以上前から様々な議論が交わされてきました。もはや障害者の性がタブー視されているとは思いません。ただ、障害者に関わる制度や福祉の観点で見ると、まだ性の問題が含まれていない。そのため、障害のある方も社会の中でパートナーと出会い、恋愛やセックス、結婚、育児ができるように現行の制度が変わる必要があります。そういった制度に変化をもたらすことができるのは、私たち一人ひとりです。障害の有無にかかわらず、全ての人が自身の性に尊厳と自立を守ることができる社会を実現できるよう、今後も地道に活動を継続していきたいですね」 <取材・文/秋山志緒> 【坂爪真吾】 1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。ホワイトハンズ代表。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年に社会貢献者表彰。著書『パンツを脱いじゃう子どもたち-発達と放課後の性』(中央公論新社)『パパ活の社会学 援助交際、愛人契約と何が違う?』(光文社新書)他多数
大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle
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