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“走る哲学者”為末大が感じる、現代社会における『ことば』の大切さ「ことばを1%変えれば人生が変わる」

 オリンピック3大会連続出場に、今も破られぬ男子400mハードルの日本記録。そして世界選手権のスプリント種目で日本人初のメダル獲得など。為末大はコーチをつけずに一人であまたの偉業を成し遂げた理由を「ことばを大切にしていたから」と話す。引退後は文筆家、指導者などさまざまな分野で活躍。“走る哲学者”の異名を持つ男に、ことばが武器にも癒やしにもなる現代社会における「ことばの大切さ」について聞いた。

“走る哲学者”「ことば」の重要性を語る

為末大_エッジな人々

元陸上選手:為末大。“走る哲学者”の異名を持つ男

――新著『ことば、身体、学び「できるようになる」とはどういうことか』では言語・発達心理学者の今井むつみさんとの対談で、ことばが学びに深く関わることをわかりやすく話されていますね。 為末:僕の人生は陸上競技が25年、引退してから10年ちょっとで、走っていたか、喋っているかのどちらかです。走っていたときも、ことばが選手の学びにとても関係することを経験し、ことばについて考えることが多かった。その後は書く仕事と話す仕事をいただくことが増え、会社の経営などもしようとも思ったのですが、結局ことばの世界に来てしまったという感じがあります。特に講演では、ことばと学びについてお話しすることが多いですね。 ――学びに興味がないような人に話すことも? 為末:あります(笑)。企業研修に連れてこられた系の方々とか。 ――そういうときはどんな話をするのですか? 為末:「向上心や学びが面白いんですよ」という感じのことも少しは話すのですが、それより「今、皆さん、ご自身が学んでいることに気づいていますか?」という話をします。僕らは「学び」というと、将来、役に立つことに対してトレーニングをしたり、知識を身につけたりすることだと考える傾向にあります。だから面倒くさい、興味がないということになるのだと思います。でも実は、役に立つこととは関係なく、人は必ず日々知識を得て、何かに慣れていくわけです。その慣れていく行為が、実は学びというものに近いのではないかと思っています。そこには、ことばを使うことも含まれます。 ――もう少し説明を。 為末:ことばを使わない仕事というのは、極めて少なくて、自分のことばが少しでもブラッシュアップされると、そのインパクトは大きいです。例えば人は毎日、歩きますよね。ですから、歩行が日々1%でも改善されると、それは非常に大きな改善に繋がります。ことばも同じで、1%でもことばが変わると、営業や会議のときの会話でも、あるいは日常的な誰かとの会話でも、すべてが改善されるのです。ですから、学びについて話をするときは、ことばの話もするようにしています。
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ことばを変えると学びが変わる
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ことば、身体、学び─「できるようになる」とはどういうことか

ことばが世界をつくるのか。世界がことばをつくるのか。
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