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“走る哲学者”為末大が感じる、現代社会における『ことば』の大切さ「ことばを1%変えれば人生が変わる」

ことばを変えると学びが変わる

為末大_2

1%でもことばが変わると、すべてが改善される

――具体的にはどんなふうにことばを変えるのでしょう? 為末:すごくシンプルなところでは、「え~、あ~」を一回、やめてみる。あとは主語を意識して話してみるとか、「たくさん」「ちょっと」のような曖昧なことばをやめてみると、それだけで急に具体性が出るということもあります。 ――ご自身はそうしたことをどう学んできたのでしょう? 為末:僕はコミュニケーションに興味があって、人と話をした後で、会話がうまくいったか、いかなかったか、それはどうしてだろうなどといろいろ考えていく癖があります。 ――『ことば、身体、学び』でも、「失敗した時にどうして失敗したか分かっている人は成長できる」 ということを話していました。普段から振り返りをしているのでしょうか? 為末:そんな感じだと思います。どういうふうにやるとうまくいくか考えるのが面白いと言いますか……。話し方をゆっくりモード、ハキハキモードなどに変えてみたり、声のトーンを変えたりして相手の反応を見ます。ことばや、話し方だけでなく、人と話すときの角度を工夫してみたり。向かい合って座って話すより、横に並んで話したほうが、「あなたの話」ではなく「この問題の話」と言いやすくなると思います。 ――会社員だと、振り返るときは、失敗した原因がどこにあったか、再度同じ失敗をしないための対策として、反省文を書かされたりします。 為末:それは、それなりに大きな失敗のときではないでしょうか。僕の振り返りというのは、もっと小さなところで、ミーティングが終わった後に、5秒でも10秒でも、まずそのミーティングがうまくいったのかを評価してみるようなことです。 ――そもそも普段の生活で、自分が使うことばを意識するということが少ない気がします。 為末:そうですよね。僕はよくスタートアップの若者たちと話をするのですが、そこで陥りがちなのは、会話のなかに英語が妙に多くなることです。KPIとか。そういうときは必ず一回、全部日本語に直すということをしています。すると面白いことに、例えば「イノベーション」を「技術革新」と言う人もいれば、「既存の概念の破壊」のように破壊系が強い人もいたり、ちょっとした改善程度の感覚で言っている人もいます。つまりそれぞれが、全然違う意味で、漠然と「イノベーション」と言っているわけです。だからやはり、日本人同士で話をするときは、会話に出てくる概念を一通り日本語に置き換えてみるというのは、すごく重要だと思います。 ――年を取って自分の型みたいなものが決まってくると、これまで使っていたことばを含め、変えていくことは難しそうです。 為末:僕が定義する「型」というのは、基本的にきちんと使い回しが利くような基本中の基本というふうに考えています。それ以上のものは、企業文化や風習などに近くて、それはおそらく時代とともに切り替えていく必要があるのではないでしょうか。ただいずれにしても、基本的には変え続けることに慣れておいたほうがよいです。 ――それも難しそうですが……。
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「若い女性と友達でいられるか」は大きい
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ことば、身体、学び─「できるようになる」とはどういうことか

ことばが世界をつくるのか。世界がことばをつくるのか。
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