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“走る哲学者”為末大が感じる、現代社会における『ことば』の大切さ「ことばを1%変えれば人生が変わる」

「若い女性と友達でいられるか」は大きい

為末大_3為末:僕らのようなおじさんたちにとって、エロい意味でなく、若い女性と友達でいられるかは大きいと思いますよ。僕自身、若い女性に限らず、自分とは違う文化圏の人と友達でいて、その人たちに合わせて会話をすること自体が、相当学習になっている感じがします。 ――女のコのいる店で、お金を払って話をするのは……? 為末:ダメ(笑)。向こうは仕事ですから、「俺、会話うまいな」とか「友達になれた」などと思わされてしまいます。実際は、友達じゃないですから! そうではなく、なるべく若い人たちと、友達的な立場で会話ができるような機会をつくっていくことは重要ではないかと思うのです。 ――ただ、最近はセクハラ問題が厳しくて、気軽に話しかけづらいということもあります。 為末:確かに。この間、「これ、いいな」と思う風景を見たんです。おじさんと若い女性の会話で、おじさんが「女性ならでは~」と言っていると、女性が「そのことばは引っかかる可能性がありますよ」と突っ込んでいました。そういうふうに女性の視点で、突っ込んでもらえるのはいいなと感じました。最近は、公の場で話をするとき「どこまでがOKか」ということばの線引きを考えざるを得ないところがあると思います。普段から、若い女性を含めいろいろな文化圏の人と話をしておくと、そうした情報をアップデートするときの「フック」になると思います。 ――「フック」ですか? 為末:例えば、「お前早く結婚しないのか」と言ったときに、「それ、今の時代に言ったらダメですよ」と、言ってもらえる関係があればアップデートするきっかけになります。今はそのようにして「この線は守っておいたほうがいい」と、ことばの許容範囲を学んでいく時代なのだと思います。自分の価値観をアップデートすれば一線を越えることはないと言う人もいますが、そんなわけはありません。価値観はもちろんアップデートしたらいいと思いますが、社会の変化が速すぎて、私たちの価値観のアップデートは全然、間に合わないはずです。みんなが同じ価値観に染まり切っても、それはそれで多様性がありません。それより技術的に、ことばの置き換えをしっかりやることのほうが重要です。このようなことは、以前はメディアに出る人だけがやっていたと思うのですが、今はほぼ世の中全部の人に必要な技術になってきていると思います。
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日本語を磨いたほうが効果が高い
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ことば、身体、学び─「できるようになる」とはどういうことか

ことばが世界をつくるのか。世界がことばをつくるのか。
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